ピアノ奏者トゥーリオ・モウラォン、多彩なゲストを迎えた傑作ミナス・ジャズ

Túlio Mourão - Barraco Barroco

ミナスの重鎮ピアニスト、トゥーリオ・モウラォン新譜『Barraco Barroco』

トロピカリアの伝説的バンド、オス・ムタンチス(Os Mutantes)などで活躍したブラジル・ミナスジェライス州出身のピアニスト、トゥーリオ・モウラォン(Túlio Mourão)の2020年作『Barraco Barroco』は、クラシック音楽、60年代の器楽、70年代のプログレッシブロックといった彼の中に今も衝動として燃え続ける音楽の軌跡を繋ぐ作品だ。

アルバムにはトニーニョ・オルタToninho Horta)やフアレス・モレイラJuarez Moreira)、シコ・アマラウChico Amaral)といったベテラン勢からミナスの若手筆頭格であるブルーノ・ヴェローゾBruno Vellozo)やフェリピ・コンチネンチーノFelipe Continentino)などまで、ピアノトリオ編成を中心に多くのミュージシャンが名を連ねており、ミナス音楽好きには堪らないクレジットになっている。

アルバムはスペイン音楽にインスパイアされた(1)「A Saga Ibérica」で幕を開ける。彼のスペイン音楽への関心は父親が聴いていたロドリーゴ(Joaquin Rodrigo)やタレガ(Tárrega)のレコードが原初の記憶だという。その後のチック・コリアの名盤『My Spanish Heart』(1976年)ではスペインへの想いをより強固なものとし、今では音楽だけでなくイベリア文化全体に強い関心を抱いているようだ。

(1)「A Saga Ibérica」

今作は本当にドラマティックな楽曲ばかりだ。
(2)「A Dois Passos do Nunca」(決してからの2ステップ)はまるでモリコーネの映画音楽を聴いているかのような展開に痺れる。続くシコ・アマラウのサックスが轟く(3)「Baile Acabado」はハードなスタッカートと、抒情性を感じさせるレガートのパートの対比が面白い。

混合拍子の(5)「Tocata Poente das Araras」はスペインやアラビアの雰囲気を纏っている。
(6)「Céu de Cacos de Vidro」はトニーニョ・オルタによる特徴的なギター・プレイが本当に素晴らしい。
田舎の詩に触発されたという(9)「Sonata Caipira」は瞑想的なソロピアノ。

トゥーリオはこのアルバムを「創造的な無秩序、実験への衝動、距離の排除、対立するものの調和」と定義している。同じ国に住む人間同士での対立が深まるこの時代にあっても、空想的で創造的なものの尊さを説く。アルバムタイトル“バラッコ・バロッコ(バロックの小屋、の意)”は音韻的だが、このBaracco(小屋)には紛争や抵抗の意味が込められているという。

ブラジル音楽の歴史の生き証人

トゥーリオ・モウラォン(Túlio Mourão)は日本での知名度こそ低いものの、ブラジルの豊かな音楽文化の生き証人ともいえるアーティストだ。この1952年生まれのピアニスト/作編曲家は、最初はトロピカリアを象徴するバンドムタンチスの鍵盤奏者(1973 – 1976年に在籍)として、その後はミルトン・ナシメント、マリア・ベターニア、シコ・ブアルキ、カエターノ・ヴェローゾ、ネイ・マトグロッソなどと共に半世紀に渡りブラジル音楽の偉大な歴史を作ってきた。

今作『Barraco Barroco』はそんな彼の芸歴50周年を派手に祝う傑作だ。

Túlio Mourão – piano
Enéias Xavier – bass
Bruno Vellozo – bass
Vagner Faria – bass
Felipe Continentino – drums
Edvaldo Ilzo – drums
Lincoln Cheib – drums
Renato Saldanha – guitar
Juarez Moreira – guitar
Toninho Horta – guitar
João Paulo Drumond – percussion
Chico Amaral – saxophone

Túlio Mourão - Barraco Barroco
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