中東音楽に魅了されたアコースティック・ギター・デュオによる深遠な弦の響き

Erkin Cavus & Reentko Dirks - Istanbul 1900

中東音楽に魅了されたギター・デュオ新譜『Istanbul 1900』

アラ・ギュレル(Ara Güler, 1928 – 2018)はアルメニア系トルコ人の高名な写真家である。“イスタンブールの眼”の異名を持つ彼は故郷イスタンブールやそこに生きる人々への深い愛情の眼差しで、街並みや生活者のポートレートをカメラに捉え続けた。イギリス写真ジャーナル年鑑はアラ・ギュレルを世界最高の写真家7人のうちの一人として認めている。

そんなアラ・ギュレルが遺した写真にインスパイアされたのが、二人のギタリスト──イスタンブール育ちのエルキン・カブス(Erkin Cavus)とドイツ出身のレーントコ・ディルクス(Reentko Dirks)だ。

2003年にドイツ・ドレスデンでアコースティックギターの研究中に出会った二人は互いの音楽性に共鳴し、ジャズ、アラブ音楽、トルコ音楽、フラメンコ、映画音楽などを織り込んだギターデュオとして活動を開始。まず最初にデュオで『Planet Kalkan』をリリースし、2021年9月にアラ・ギュレルの写真をカヴァー・アートに用いた新譜『Istanbul 1900』を制作・リリースした。

全曲が二人によるオリジナルで、憂いを帯びた短調の曲が情感豊かに演奏される。中東音楽では伝統的に用いられる奇数拍子、例えば9/8拍子の(1)「Galata Liman」や(3)「Sokak Arasi」などは古くから交易の中心地として栄えた古代イスタンブールに想いを馳せるには充分すぎる素晴らしさだ。

エルキン・カブスが弾くダブルネックのガットギターは一方がフレットレス、もう一方がフレッテッドとなっており、フレットレスギターの方ではウードのような微分音で他に類を見ない深みのある音色を聴かせてくれる。

かたやレーントコ・ディルクスの方はスティール弦のギターを使っているが、通常のギターより低くチューニングされたバリトンギターをピックではなく指で弾いており、その音色には温かさがある。

2本のアコースティック・ギターで丁寧に紡がれる深遠な音楽。じっと聴いていると、余計な雑念が取り払われる。

(7)「Vefa」。ハーモニクス奏法も交えたフレットレス・ギターの演奏に注目。
(4)「Kadiköy Liman」

デュオの略歴

エルキン・カブスErkin Cavus)は1977年にトルコ系の両親のもとブルガリアで生まれ、1989年にイスタンブールに移住した。幼少期からクラシックギターを習い始めた彼は19歳頃になるとフレットレス・ギターの先駆者であるエルカン・オグル(Erkan Oğur)に触発され自身もフレットレス・ギターの演奏を開始。2000年代初頭にドイツに留学している。

レーントコ・ディルクスReentko Dirks)は1979年生まれ。母国ドイツでクラシックのギタリストとしてのキャリアを積みながらもフラメンコやアラブ音楽の研究に夢中になり、イスラエルのエルサレムで半年ほど生活していたこともあるそうだ。
ヨーヨー・マ(Yo-Yo Ma)、ペーター・ブルンズ(Peter Bruns)、クセーニャ・シドロワ(Ksenija Sidorova)などとの共演歴を誇り、2012年からはヨーロピアン・ギター・カルテット(European Guitar Quartet)の一員としても活動をしている。

ユニークで繊細なこのアルバムは、トルコで2020年に職を失った15万人の伝統的な商人、芸術家、労働者に捧げられている。

(1)「Galata Liman」

Erkin Cavus – acoustic double neck guitar
Reentko Dirks – bariton guitar, octave guitar

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