伝統音楽と現代ジャズの奇跡の邂逅。カテリーナ・ラドコヴァ×アントニオ・ロウレイロ

Katerina L'dokova - Mova Dreva

ベラルーシ出身カテリーナ・ラドコヴァの新譜『Mova Dreva』

前作『Singularlugar: Travessia』(2019年)が大きな反響を呼んだベラルーシ出身ピアニスト/シンガーのカテリーナ・ラドコヴァ(Katerina L’dokova)が、2年振りの新作でより進化した姿を見せた。新譜『Mova Dreva』にはブラジルのSSWアントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro)がドラムスやエレクトリック・ピアノなどで全面参加し、音楽面・音響面で大きな影響を与えていることも大きなトピックだ。

カテリーナ・ラドコヴァは本作タイトルと同じ名前のカルテット「MOVA DREVA」を2014年から組み活動しているが、今回のアルバムではドラムス/パーカッション奏者として前代のチアゴ・サントス(Tiago Santos)に代わり、ブラジルのマルチ奏者アントニオ・ロウレイロが招かれている。また、前作にも参加していたトランペット奏者のディオゴ・ドゥケ(Diogo Duque)、フルート奏者のディエゴ・コルテス(Diego Cortez)が引き続き数曲でゲスト参加している。

このアルバムは彼女がずっと構想を抱いており、ようやく作品として形に残ったものだと思う。Mova Drevaとはベラルーシ語で“樹木の言語”を表し、根差した地球の叡智を養分に成長した巨大な樹木の枝葉が宇宙と融合するという、古代スラヴ神話にインスパイアされたものだ。母国ベラルーシの伝統音楽や習慣をリサーチし、世界中の他の文化とも共通する人間の営みの根幹の部分を明らかにしようとするカテリーナ・ラドコヴァの活動の結晶でもある。

伝統音楽と現代ジャズの奇跡の融合

音楽的な面でいうと、今作は幾分ポストクラシカル/民俗音楽的な印象の強かった前作と比べるとぐっと現代ジャズに寄っている。東欧的な変拍子は伝統的なものだが、同時に世界各国の先鋭的なジャズ・アーティストたちがこぞって取り入れる“民俗的”エッセンスそのものでもある。伝統音楽と世界共通のジャズの潮流の融合という観点でいえば、大きな役割を果たしているのがアントニオ・ロウレイロであることは間違いない。今作ではロウレイロがサウンド面のプロデュースも務めているが、この広がりのあるサウンドは彼の最近のアルバムの傾向とほぼ同じ。Mova Drevaの目指すヴィジョンと、先鋭的なロウレイロが持つ審美眼がかつてない相乗効果を生み、大袈裟ではなく、本当に奇跡的な作品に仕上がっているように思う。

グループのクラリネット奏者、パウロ・ベルナルディーノPaulo Bernardino)とベースのジョアン・フラゴーゾ(João Fragoso)の剛柔織り交ぜた演奏も素晴らしい。

(1)「Viasna」。
録音はポルトガルで行われており、ヴィデオに映っていないアントニオ・ロウレイロのドラムスはブラジルで別録りと思われる。

カテリーナ・ラドコヴァ略歴

カテリーナ・ラドコヴァはベラルーシでクラシックのピアニストの家庭に生まれた。2006年からは大西洋の真ん中に浮かぶアゾレス諸島に居住しピアノ教師および演奏家として、2012年からはポルトガルのリスボンに場を移し活動。2015年にはジャズピアノの学位を取得している。

ポルトガルでヨーロッパの舞踏音楽をモチーフとするオリジナルのバンドLedok、ポルトガル語の詩をモチーフとするデュオSingularLugar、ブラジル音楽に影響を受けたKataventoといった複数のプロジェクトを主宰しつつ、ブラジル・ミナス新世代グループ、ウニヴェルソ・ヘフレクソ(Universo Reflexo)や、ディエゴ・コルテスと打楽器奏者ホナタン・スセールによる超絶技巧デュオ、エンビチャデロ(Embichadero)にもゲスト参加するなど南米にも幅広い人脈を築く。

今作でフィーチュアされているMova Drevaは2014年から行われている活動で、ベラルーシの民俗音楽を研究し現代風の解釈で演奏する意欲的なプロジェクトだ。
彼女は幼少期から西洋クラシック音楽やピアノの演奏を学んだが、故郷ベラルーシの伝統音楽について学ぶ機会はなかった。とある音楽イベントで伝統音楽を演奏しなければならない機会があり、その時に初めて自身のルーツについて探求する必要を感じ、仲間を集めMova Drevaを結成した。

Katerina L’dokova – composition, research, arrangements, music direction, piano, voice
António Loureiro – drums, electric piano, electronics, music production, recordings
João Fragoso – double bass
Paulo Bernardino – clarinet, bass clarinet
Diogo Duque – trumpet Trumpet (4, 8)
Diego Cortez – bass flute (4)

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