ターキッシュ・クラリネットとピアノの夢遊の祝宴
フランスのターキッシュ・クラリネット奏者/作曲家、ヨム(Yom)の2021年新譜『Celebration』はピアノとクラリネットを軸に中東音楽に特徴的な微分音、さらにはエレクトロニカなども大胆に用いた、音作りだけを聴けば実験的でありながらも音楽・演奏面ではキャッチーさやスリルも併せ持った非常に興味深い作品だ。
アルバムにクレジットされているのはYomとピアニストのレオ・ジャセフ(Léo Jassef)の2名のみ。基本的にターキッシュ・クラリネットとピアノだけのデュオ演奏だが、アンビエントな音響(といっても演奏が技巧的かつスリリングなため決して退屈な音楽ではない)とも相まって作品としての完成度がとても高い。
(5)「Born Again」でのクラリネットのフレーズや(2)「Elegy for the New Born」の後半のピアノの高音部など、西洋音楽に馴染んだ耳には奇怪とも思えるようなこれまでに聴いたことのないような旋律に驚かされる。
伝統音楽と未来の音楽、あるいは西洋音楽と中東音楽の間のミッシングリンクを埋めるような作品と感じた。
文化のルーツ、そしてその行先を探究する稀有なクラリネット奏者、ヨム
Yomことギヨーム・ユメリー(Guillaume Humery)は1980年フランス・パリ生まれ。5歳の頃にセルゲイ・プロコフィエフの「ピーターと狼」を聴いてクラリネットを吹きたいと両親に懇願し、最初はリコーダー、そして次に念願のクラリネットを習ったという。1990年にパリの音楽院に入学、1997年にはクラリネットのコンクールで最優秀賞を受賞している。
ユダヤをルーツに持つ彼はその後クレズマー音楽に傾倒。2001年にOrient Express Moving Shnorersというグループに参加し『Klezmer Nova』をリリースし、2007年までツアーに帯同したが、以降はソロ活動や自身のバンドでの活動を行い2008年に『New King of Klezmer Clarinet』でソロデビューを果たしている。
これまでにトランペット奏者のイブラヒム・マアルーフ(Ibrahim Maalouf)、仏在住中国人口琴奏者のワン・リ(Wang Li)、教会オルガン奏者バティスト・フロリアン・マール・オブラード(Baptiste-Florian Marle-Ouvrard)といったユニークな共演も多数。フランス随一のターキッシュ・クラリネット奏者としてその名を馳せている。
Yom – clarinet, percussions, piano
Léo Jassef – piano, percussions, electronics