超絶技巧と豊かな表現力で魅了するガロート名曲集
ガロート(Garoto, 1915 – 1955)は近年のブラジル音楽史を語る上で外せないギタリストだ。卓越したギターのテクニックを持っていただけでなく、優れた楽曲を数多く遺し、バーデン・パウエルやジョアン・ジルベルトなど後世のギタリストたちに大きな影響を与え、こんにちのギター音楽大国・ブラジルを作り上げた先駆者のひとりと言っても過言ではない。
そんなガロートの名曲にブラジルの若手最高峰ギタリストのひとり、カイナン・カヴァルカンチ(Cainã Cavalcante)が真摯に取り組んだのが今作『Sinal Dos Tempos – Cainã Toca Garoto』。圧倒的な技巧に裏打ちされた表現力を武器に、ガロートのメロディを軽やかに踊らせる。
カイナン・カヴァルカンチの演奏を支えるのはエリス・レジーナやアントニオ・カルロス・ジョビンらと演奏を共にしたブラジル音楽界の生き字引きであるドラマー、パウロ・ブラガ(Paulo Braga)と、ヤマンドゥ・コスタとの共演などで知られるベースのグート・ウィルチ(Guto Wirtti)。鉄壁のリズム隊に乗って自由に弾きまくるカイナン・カヴァルカンチのヴィオラォン(ガットギター)が、ガロートという存在の偉大さを改めて浮き彫りにする。
夭逝の作曲家/ギタリスト、ガロート
ガロート(Garoto, 本名:Aníbal Augusto Sardinha, 1915 – 1955)はポルトガル移民2世としてサンパウロに生まれた。ギタリストとして知られているが、バンドリンやカヴァキーニョなど弦楽器はなんでも得意とし“弦楽器の天才”と称賛されていたという。
15歳頃からプロとして活動。25歳の頃に国民的歌手カルメン・ミランダ(Carmen Miranda)のバックバンドとして米国でのツアーも経験し、ブラジル随一のテクニックを持ったギタリストとして一部では知られるものの、経済的な観点では充分に大成したとは言えない生活が続いていたようだ。
彼の名が広く知られるようになったのは晩年(…といっても30代の後半)で、1953年にリリースされ当時70万枚を売ったという陽気な曲「São Paulo Quatrocentão」がきっかけ。ガロートはここで初めて大金を手にしたが、ヨーロッパツアーを計画中の1955年5月3日に突然の心臓発作で帰らぬ人となってしまった。短い人生ではあったが、卓越した演奏技術やハーモニー感覚などはショーロにおけるギターの地位・役割の向上や後のボサノヴァの誕生にも強い影響を与えている。
ガロートが遺した曲としては、今作にも収録されている代表曲(7)「Lamentos do Morro」や、死後にバーデン・パウエルやシコ・ブアルキらによって取り上げられ広まった(5)「Gente Humilde(素朴な人々)」などが知られている。
カイナン・カヴァルカンチ 略歴
今作のリーダーであるギタリスト、カイナン・カヴァルカンチ(Cainã Cavalcante)はセアラ州フォルタレーザ出身。1990年生まれの若手ながら既に9枚のアルバムをリリースしており、ブラジルのギター界の逸材だ。ドミンギーニョス(Dominguinhos)、シコ・セーザル(Chico César)、ヤマンドゥ・コスタ(Yamandu Costa)、アミルトン・ジ・オランダ(Hamilton de Holanda)、ヒカルド・バセラール(Ricardo Bacelar)などの大物から、ミシェル・ピポキーニャ(Michael Pipoquinha)、ペドロ・マルチンス(Pedro Martins)といった若手まで多数の優れた音楽家と共演してきた。
Cainã Cavalcante – guitar
Paulo Braga – drums
Guto Wirtti – contrabass