現代社会に対する鋭い洞察、Dave Meder『Unamuno Songs and Stories』
アメリカ合衆国フロリダ州のピアニスト/作曲家デイヴ・メーダー(Dave Meder)の2ndアルバム『Unamuno Songs and Stories』。ピアノトリオを中心に、数曲でトランペットのフィリップ・ディザック(Philip Dizack)、サックスのミゲル・ゼノン(Miguel Zenón)が参加した注目作品だ。
アメリカ発のジャズ作品でありながら、デイヴ・メーダーの作曲やピアノのプレイはヨーロッパ的な叙情性が強く滲む。それもそのはず、今作のタイトルに掲げられた“ウナムーノの歌と物語”とはスペインの詩人/哲学者/劇作家ミゲル・デ・ウナムーノ(Miguel de Unamuno, 1864 – 1936)のこと。
デイヴ・メーダー自身による作品の解説では、以下のように作品のテーマを表現している。
この作品は、精神的、感情的な放浪──つまり、指導者や同胞の行動に対する深い幻滅の感覚を表しています。
引用元:YouTube
20世紀初頭のスペインでは、実力者やキリスト教聖職者、裕福な地主からなる右派政治連合が台頭し、ミゲル・デ・ウナムーノ(と彼のような知識人)を徐々に国家の敵に変えていくことに成功した。このような社会派閥の対立は、最終的に国を大きな犠牲を伴う内戦に追い込みました。ウナムーノは1936年に自宅軟禁のまま亡くなり、この戦争は最終的にスペインの民主的に選ばれた政府を崩壊させ、1975年まで右翼の独裁政権を押し付けることになりました。
歴史的な比較は常に微妙で難しい。しかし、近年のアメリカの政治運動は、私たちの多くをウナムーノが経験したような精神的、感情的、人間的な放浪状態に近づけています。私の比較的短い人生の中でも2016年~2021年の間ほど、自分の国から隔絶されたように感じたことはありません。
…これは「大学でスペイン語と政治学を学んだ経歴を持つジャズピアニストならではの独自の視点」だろうか?
深い意味が込められた充実の9曲
ウナムーノの嘆きを体現するラストトラック(9)「Exile」では、まずシンプルなメロディーが提示されるが、すぐにそれぞれのパートが異なる表現を始め(2:33〜)、所々で対話をしつつもほぼ独立して存在している。感情の高まるにつれ再びトランペットが議論に加わり(3:59〜)、徐々にある種のカタルシスに到達(5:38〜)する。
デイヴ・メーダーはこれを集団的苦痛の認識と、そこからの希望や楽観主義、再生の感覚、そしてもし自分たちが再び団結できなかった未来がどんなものかという想像図であると説明している。
(4)「I Look for Religion in War」はさらに刺激的だ。
ウナムーノは戦争こそが人類の本質であり、平和とは一時的な現実であり、そして平和こそが国家や集団の不平等を認識させ、嫉妬を生じさせるものだと主張した。戦争と闘争こそ、真の相互理解を生み出す、より永続的な理想であると…。
これは1世紀前の“プリミティヴな”主張だと嗤うのは簡単かもしれないが、この時代にどんなことがあって、なぜウナムーノほどの思想家がこうした考えに至ったかについて想像を巡らせることが求められているようにも思う。
気鋭のジャズピアニストであり、社会を鋭く捉える思想家 デイヴ・メーダー
デイヴ・メーダーは1990年フロリダ州タンパに生まれで、幼少期には常に讃美歌があった。クラシックピアノから音楽を始め、中学でジャズバンドを結成、その後は大学でスペイン語や政治学を専攻。さらにはジュリアード音楽院でジャズを学んでいる。
2018年以来ノーステキサス大学でジャズピアノの助教授を務め、さらにピアニストとして2019年に『Passage』でアルバムデビューし高く評価された。
そして、今作『Unamuno Songs and Stories』は時代を代表するピアニスト/作曲家として大きく飛躍する一枚となることは間違いない。
Dave Meder – piano
Marty Jaffe – bass
Michael Piolet – drums
Guests :
Philip Dizack – trumpet (4,9)
Miguel Zenón – saxophone (6)