エモーショナルな歌声にクールなサウンド。究極のバランス感覚を体現する日本語JAZZのニュースタンダード。

初めての副題によるテーマ性と描かれる2面性

12月にデビュー15周年を記念したカバーアルバム『App Standard』をリリースしたジルデコイ・アソシエーション(JiLL-Deecoy association)、通称ジルデコ。
松任谷由美からyamaの「春を告げる」(!)まで振り幅の広いカバーを披露した最新作(特にキリンジ『エイリアンズ』のJAZZカバーは必聴)ではあるが、今回はジルデコ史上個人的最高傑作の『ジルデコ4~Ugly Beauty~』をご紹介したい。

ギターのkubota/ドラムスのtowada、そしてヴォーカルのchihiroの3名からなるスリーピースJAZZバンド、ジルデコ。(現在は、kubotaが脱退して2名編成)
センスのいいJAZZサウンドはもちろんながら、ジルデコの最大の特徴はchihiroのエモーショナルなまでの表現力と彼女自身の私小説のような作品性にあるといっていい。
デビュー作『ジルデコ1』は熱量の高い、まさにJAZZのカッコよさを体現した名盤であるし、同作の「Jolly Jolly」や『ジルデコ2』の「SUMMER MAGIC」は恋の喜びに満ちている。
『ジルデコ3』ではHipHopへの傾倒を強めたかと思うと、結婚後の作品『ジルデコ8~Golden Ratio~』収録の「YADAYA」ではゲスト参加のKOOLOONと共に夫婦の会話をコミカルに描いている。
このように、chihiroの心境の変化やライフステージの変化によって、万華鏡のように作品が趣を変えていくのが、ジルデコの面白いところだ。

文中では紹介していないが、『ジルデコ8~Golden Ratio~』より「イヤホンを外したら」。韻シストのBASIと対等に張り合うchihiroの音楽的センスはさすがの一言。

そしてこの『ジルデコ4~Ugly Beauty~』。
今までナンバリングタイトルのみだったアルバムタイトルに初めて「Ugly Beauty」という副題が添えられた。
JAZZに詳しい方は、すぐにセロニアス・モンク(Thelonious Monk)の同曲を思い浮かべることだろう(実際に作品中でも同曲のカバーは登場する)
ただ、この「Ugly Beauty(醜い美しさ)」という言葉は、JAZZという文脈以上に本作に深い意味を持たせている。
本作のスタートを飾る(1)「ドレスを着る前に」は他の女性との結婚を前にした男性との秘密の逢瀬がクールなJAZZサウンドと共に美しく描かれる。しかし、曲中で“品のない優越感”と表現されているように、その美しさは醜さの裏返しでもある。
一方で(4)「わすれ名草(Vergiss-mein-nicht!)」では打って変わって、 “美人でもブスでもない/覚えづらくてごめんね”“ずっと忘れないで/可愛いと言ってくれた耳も”と、か弱い素の女性像がドラマチックなストリングスと共に歌われ、醜いと自嘲しながらもその恋を振り返る女性は、逆に強くもあり、凛とした美しさを備えているようだ。同様に現在進行形の恋に対しての不安や迷いをストレートに表現した(6)「3年目のジンクス」では、それでも“あなたが笑わせてほしい”と、恋人に全幅の信頼を置く女性の強さが見事に描かれている。

文中で紹介していない(2)「上質サボタージュ」のAcoustic ver.。作品中ではバンドサウンドで聞かせてくれる。

上記のように女性の揺れ動く2面性を見事に表現したchihiroのヴォーカルも見事ながら、その二つを同じ作品に共存させることによって、聴くものにとって自由な解釈が可能となっている。
「Ugly Beauty」が意味するものとは、「醜いことの美しさ」か、はたまた「美しい姿をした醜さ」か。どのように捉え、どのように解釈できるか、本作を聴いて、是非確かめてほしい。

また、サウンド面にも少し触れておきたい。
上記のような日本語JAZZだけでなく、本作では3曲の英語曲と1曲のインストナンバーが収録されているが、その中でもジュリア・フォーダム(Julia Fordham)のカバーである(3)「Happy Ever After」や、(12)英国JAZZバンドWorking Weekの「Thought I’d Never See You Again」といったカバーは、特筆したい2曲。前者は(1)と共にquasimodeのパーカッショニストmatzzの参加が音に彩りを添え、後者は須永辰雄プロデュースにより、かなり現代的にアレンジされている。

日本語詞によるエモーショナルな作品は、寄りすぎるとPOPになってしまう。
それを絶妙なバランスでクールなJAZZに昇華させるジルデコは、やはり日本のJAZZ界でも異質と言っていい。10年経った今でも色褪せることなく輝き続ける作品。それは10年前に既に日本語JAZZのニュースタンダードになっていた証ではないだろうか。

次のナンバリング、『ジルデコ10』ではどんな表情を見せてくれるのか。
今後も目が、いや、耳が離せない。

プロフィール


2002年結成。chihiRo (vocal)、towada (drums,リーダー)
2006年メジャーデビュー。
ジャズ/ポップス/ロックをベースにしたオリジナリティあふれる楽曲、
その楽曲を彩る愛に満ちあふれた歌が多くのファンを魅了している。
2013年にはアルバム『ジルデコ5』が「第55回日本レコード大賞」の<優秀アルバム賞>を受賞。
A-HAの「Take on me」をジャズアレンジしたMVが話題を呼び、海外のテレビでも紹介される。
ビルボードライブ東京、東京ジャズや日本全国のジャズフェス、国内最大級のロックフェスRISING SUN ROCK FESTIVALにも出演し、唯一無二の存在を確かなものにした。
2019年3月6日に「ジルデコ9〜GENERATE THE TIMES〜」をリリース。
初のビッグバンドも参加し、16年で築き上げた「ジルデコのJAZZ」を全て日本語で歌い上げた。

2012年の企画作品『Lining』よりA-HA「Take On Me」カバー。控えめに言って最高。
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