【特集】自らのHipHopを貫き通す”日本のJ.Dilla”。MONJU発、ISSUGIのワールドワイドなトラック10選

HipHopカルチャーの正統な伝導者・ISSUGI

HipHopは生き物である。
また同時にクラシックであり、最先端のポップスでもある。
日本のHipHopカルチャーは、主にアメリカの音楽トレンドに呼応するようにその姿を変えてきた。
ネイティブ・タンを始めとするニュースクールが盛り上がりを見せると、日本でもスチャダラパーなど自由なHipHopが音楽シーンを席巻。2Pacスヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)など西海岸系(いわゆるウェッサイ)が隆盛した際には、ZEEBRAをはじめとし、ビッグサイズのファッションにゴールドのネックレスといった音楽だけでないカルチャーの部分もまた、日本で見られるようになった。
そしてトラップと呼ばれるHipHopジャンルがメインストリームの現在、日本でもKOHHJP the Wavyといったアーティストが活躍しているのは、記憶に新しいのではないだろうか。

一方で、そういった時代のトレンドに流される事なく、自らの考えるHipHopをブレずに貫き通すラッパーがいる。それが今回取り上げるISSUGIだ。
2006年にHipHopクルーMONJUからキャリアをスタートさせたISSUGIはデビューから16年。既にベテランの域に達するアーティストでありながら、毎年作品をリリースするなど、その創作意欲は衰えを知らない。トレンドに流されず、自らのアティテュードを貫きながらも、決して古臭いスタイルではなく、常にそのサウンドをアップグレードし続けるその姿は、エンターテインメントとしてではなく表現としてのHipHopを体現しているといえる。

そんなISSUGIのグルーヴを感じることのできる楽曲を本特集では厳選。
また、本特集に合わせたプレイリストも作成した。
レぺゼン日本ともいえる、ワールドワイドなHipHopがここ日本でも生まれ続けていることを、その耳で確かめていただきたい。

1.Love it though / 16 Flip feat. Georgia Anne Muldow

ラッパーとしてだけではなくDJとしても活躍するISSUGIのDJ名義・16Flipの作品。アメリカのジャズ・ソウルシンガー、ジョージア・アン・マルドロウ(Georgia Anne Muldow)を迎えた美しいR&B楽曲。

2.In the Night / MONJU

ISSUGIが所属するクルー・MONJUの21年作『Proof of Magnetic Field』より。70年代のクラシック映画を思わせる16Flipの渋いトラックにISSUGI→仙人掌(せんにんしょう)Mr.PUGのマイクリレーが心地よい。

3.CONGE SPIRITS / ISSUGI

さまざまなプロデューサーとタッグを組んだ企画作品『7INC TREE』より。
ローリン・ヒル(Lauryn Hill)擁する伝説的クルー、フージーズ(Fugees)の「Ready or Not」を大胆にサンプリングしたジャジーなHipHop。
サウンドプロデューサーは、日本のCram Moevius

4.366247 / ISSUGI

ISSUGIの最新作『366247』よりタイトル曲。
日本のシティポップ使いで話題になったザ・ウィークエンド(the weeknd)の「Out of Time」を思わせる懐かしのキラキラサウンドと硬派なラップのギャップにやられる1曲。「世の中のキーと少し外れても/大丈夫HipHopは不協和音」のラインがひたすらにクール。
サウンドプロデュースは盟友のDJ Scratch Nice

5.On the Train / ISSUGI

『URBANBOWL MIXCITY』より。
DJ Scratch Nice、MONJUの仙人掌と気心のしれた布陣。比較的音に対してリリックを詰め込むタイプのISSUGIの中で、仙人掌のフックをはじめ、音にハマったラップが気持ちいい一曲。EPMDエリック・サーモン(Erick Sermon)の名前を出すなど、東海岸HipHopの影響を感じることが出来る。

6.Time / ISSUGI feat. Kid Fresno & 5lack

Gradis Niceのジャジーなトラックが詰まった『Day and NITE』より。
ラップ巧者の3者3様のラップが楽しめるのはもちろん、5lack(スラック)の「憧れを捨てる節約なLifeなら/きっとお前を一生呪うぜ」のラインは、強い言葉ながらも次世代のラッパーに向けた愛を感じる。

7.踊狂-Cazal Organism Remix- / Sick Team

ISSUGIが所属する別クルーSick Teamの代表曲「踊狂」のリミックス。前述の「Time」同様、5lackのハイトーンラップとISSUGIのラップの相性は言わずもがな、Jazzy Sport(GAGLEをはじめとした日本のJazzy HipHopを量産する音楽レーベル)産の小粋で揺らぎのあるJ.Dilla(J・ディラ)風トラックは文字通り踊らずにはいられない。「踊狂(とうきょう)」というタイトルからも、練馬出身のISSUGIのレペゼン東京を感じるHipHopクラシック。

オリジナル版の「踊狂」。Remix版に比べて音数も少ないながらも、楽曲の強度をより強く感じることが出来る。

8.BIL-GWOP SULLIVAN REMIX- / BES & ISSUGI feat.MICHINO

盟友・BES(ベス)を迎えた企画盤『VIRIDIAN SHOT』収録の「BIL pt3」のREMIX。
オリジナルはBES・ISSUGIの特長が良く出た硬派なハードHipHopだが、こちらは跳ねたトラックが心地いい、Jazzy Sport界隈のアーティストらしい楽曲に仕上がっている。オリジナル/リミックス共にフィメールラッパーらしからぬ客演MICHINO(ミチノ)の硬派なラップは本曲の見どころの一つ。

9.My Shit / Sick Team feat.Mimismooth

Sick Teamの2011年のデビュー作『Sick Team』より。気怠いMimismoothのコーラスと、ビブラフォンの音色をループさせたBudamunk(ブダモンク)の中毒性のあるトラック、そしてクセのある5lack、ISSUGIのラップを3分17秒に見事に封じ込めた、まさに「作品」と呼ぶべき一曲。メインストリームを意識していたら決して生まれてこないような楽曲が当たり前のように生み出される「ISSUGI界隈のHipHopが面白い理由」がこの曲に詰め込まれているといっていい。

10.NITE STRINGS -BUDAMUNK Remix- / ISSUGI & Gradis Nice

最後に紹介するのは前述した『Day and NITE』のリミックス盤収録の一曲。元曲が既にGradice Niceのジャジートラックではあるが、それを更にSick TeamのBudamunkが味付け。J.Dillaのような揺らぎのあるトラックは、まさにISSUGIをよく知る2人のトラックメイカーが作り上げたISSUGI用トラックといった趣き。

番外編. LIL SUNSHINE / ISSUGI

ナズ(Nas)やE40,近年ではケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)とも作品を共にするDJ FRESHプロデュースの楽曲。曲中でもNasやJ.Dilla等を登場させ、東海岸の影響色濃いISSUGIにしては、異色といっていい西海岸トラック。とはいえ、元々スケボーからHipHopに入ったISSUGIにとって、西海岸のHipHopカルチャーは意外と親和性が高く、本作でも違和感なく乗りこなしている。

MV中でスケボーも披露

毎年作品を残し続けるISSUGIの中で今回取り上げた楽曲がほんの一部にしか過ぎないが、彼のブレないHipHop観の一端は感じることが出来たのではないだろうか。

ラップはもちろん16Flip名義のトラックメイキングまで、HipHopに関するあらゆることを体現し続けるISSUGI。そのブレない音楽はいつかメインストリームの音楽をも変えてしまうかもしれない。

プロフィール

東京都練馬区出身のラッパー / ビートメーカー。
中学の頃に出会ったスケートボードの影響からヒップホップを聴き始め、自身もリリックを書き、曲を作り始める。MONJU、SICK TEAM、BES & ISSUGI等としても作品を出し続け 16FLIP名義では、ビートメイクやDJもこなす。ソロを含めこれまでに多数のアルバムやミックス作品をリリース。2022年7月にソロ9thアルバム「366247」をリリース。東京Dogear RecordsをRepresent。(ISSUGI公式サイトより)

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