POPSがJAZZの垣根を越えた瞬間。SPEEDのhiroによるJAZZプロジェクトCocod’Orの2004年作『Cocod’Or』

Popアーティスト×JAZZスタンダード。本作がここまで成功した理由

「Route66」「Avalon」「And The Melody Still Lingers On (A Night in Tunisia)」…ムジカテーハ読者であれば、聴いたことのあるであろうJAZZスタンダードの数々が並ぶ一枚のアルバム。
第46回日本レコード大賞企画賞、第19回日本ゴールドディスク大賞ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤー、第19回日本ゴールドディスク大賞ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤーを獲得した2004年発表の紛うことなきJAZZアルバムである本作は、他でもないあのSPEEDのhiro(島袋寛子)のプロジェクト、Cocod’Or(ココドール)によるものである。

(10)「Orange Colored Sky」(5)「Fly Me To The Moon」MV

音楽の歴史を紐解けば、このようなジャンルを越えたクロスオーバープロジェクトは枚挙に暇がない。
古くは、HipHopとRockのクロスオーバー作品として今も歴史に残る映画『ジャッジメントナイト』のサウンドトラックから、近年ではBaby Metalのようなメタルをパフォーマンスするアイドルと言ったアーティスト単位のクロスオーバーも存在している。
人気のあるアーティストが他ジャンルをカバーすることにより、音楽の裾野が広がる。
これ自体は非常に喜ばしいことではあるのだが、一方でクロスオーバー作品にはアーティストとしてそれなりの覚悟が必要になる。
他ジャンルに異種格闘技戦を仕掛けるわけである。
そこに存在する既存のファンを納得させることの出来る圧倒的な実力とクオリティが求められるのは想像に難くない。

そういった意味では多数の賞も受賞し、20年経った今も記憶に残って語られるこの事実こそが、本作が単なるクロスオーバー作品ではなく、クオリティの高い作品であることを物語っている。

事実、本作は後の作品でもプロデュースを務めるCOLDFEETをはじめ、福富幸宏中塚武
Fried Pride須永辰緒、beret(べレイ)の奥原貢など、日本を代表するアーティスト/プロデューサーが各曲を担当。
また、クラブジャズ界隈の人選によってスタンダードJAZZから絶妙に目線を逸らすことで、POPファン・JAZZファンどちらにもアプローチ出来る中庸のサウンドを作り出したという意味では、まさに完璧に計算され尽くされた布陣とも言える。

これだけを見てもクオリティに疑いの余地がないわけだが、それを担保するのは何よりもhiroの歌唱力・表現力によるものだろう。

SPEED時代にも圧倒的な歌唱力で最年少ながらユニットを引っ張って来たhiro。
デビューから10年ほど経ったことで磨きのかかった「歌唱力」と歳を重ねたことによる「表現力」はもちろん、一方でまだ20代前半という大人でもあるがまだ大人にはなりきれない、気づいたらあっという間に過ぎ去ってしまう人生においての極々短い希少な時間の「感性」。

日本を代表する最高の布陣と、hiroの類まれなる才能、そしてその時にしか表現出来ない限定的な「時」の魔法によって、この奇跡のアルバムは生まれたのである。

Cocod’Or史上最もJAZZなアルバム

実際に本作を一聴してみれば、本作が類稀なるクロスオーバー作品であることを理解することが出来るだろう。


鈴木明男の手による(1)「Route 66」(2)「Avalon」は生音を生かしたど真ん中のJAZZ。見事にスウィングしながら伸び伸びと歌い上げるhiroの歌声とともに、作品の幕を開けるにふさわしい楽曲達である。鈴木明男はこの他本作最多の7曲を手掛けており、そのどれもが最高級のワインのような上質なJAZZに仕上がっている。


福富幸宏が手がけた(3)「And The Melody Still Lingers On (A Night in Tunisia)」は一転してベースの効いたスリリングなクラブジャズ。原曲のチャカ・カーン(Chaka Khan)の歌声に負けない力強い歌声はまさにhiroの真骨頂と言ったところ。


(4)「Wanna Be Free」は中塚武がプロデュース。(1)〜(3)とは打って変わって肩の力を抜いたボーカルに表現力の高さを感じる一方、テクニックだけではないエモーショナルな抑揚はまさにこの時だからこそ出来る表現であり、本作のハイライトと言っていい。


(5)は言わずと知れたJAZZのスタンダードナンバー「Fly Me To The Moon」。本作のメインプロデューサーでもあるCOLD FEETによって、スウィンギンな仕上がりに。(14)「I Can’t Give You Anything But Love」しかり、COLD FEETのどちらかというとhiroの若さと可愛らしさを引き出す作りは本作に幅を持たせていると言える。


(6)は一聴してわかる横田明紀男のギターがまんまFried Prideな「Summertime」。ボーカルもshihoかと思うほどに巧みなスキャットとファルセットでhiroのスキルをわかりやすく感じることの出来る一曲。


心地よいギターの流れを引き継ぐのはアストラッド・ジルベルト(Astrud Gilberto)の名曲(7)「The Face I Love」。ボサノヴァ楽曲である原曲を大胆にアレンジした、身体が勝手に動き出すようなクラブジャズは、beretの奥原貢がプロデュースと聞いて納得のエモさ。


音楽プロデューサーで自身もJAZZピアニストである島健が手掛けるのはナットキングコール(Nat King Cole)の(11)「The Very Thought Of You」。森山良子といい、JUJUといい、この人の手にかかるとちゃんとJAZZになるのが実に面白い。


(12)はチックコリア(Chick Corea)の「Spain」。情熱的な原曲そのままにクラブジャズに仕上げたのは続く『Cocod’Or2』にも参加しているSuitcase Air Line


そして最後を飾る、映画『バグダッドカフェ』の主題歌で有名な(16)「Calling You」を手掛けるのは日本のクラブジャズシーンの超重要人物・須永辰緒。『夜ジャズ』シリーズを展開する須永らしいキャンドルゆらめくような楽曲は、原曲のような妖艶さはなくともhiroの大人の部分を十二分に引き出し、本作は幕を閉じる。

Cocod’Orプロジェクトは現在までにナンバリングタイトルを3作リリースしている。
2006年の『Cocod’Or 2』は夏をコンセプトにBossaやラテンアレンジを効かせた楽曲を数多く収録し、hiroのキュートな歌声が全面を全面に打ち出した内容。
2011年の『Cocod’Or 3』はマンハッタンジャズクインテット(Manhattan Jazz Quintet)のリーダー、デビッド・マシューズ(David Matthews)が手掛ける一方、hiroもプロデュースに参加。ノラ・ジョーンズ(Norah Jones)やカーディガンズ(Cardigans)、メイヤ(Meya)などのポップ曲を、クラブジャズというよりかは、しっとり歌い上げる内容となっている。

『Cocod’Or 2』ではレッド・ホット・チリペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)の「By The Way」をカバー。
『Cocod’Or 3』より、バート・バカラック(Burt Bacharach)の「Alfie」。

いずれもSPEED時代とは違う表情を見せてくれるとともに、歌や表現力も間違いなくレベルアップしている作品達であるが、何よりJAZZの持つ即興性、つまり、その時にしか表現できない、まさにPortrait in Jazzともいうべき作品、それがこの『Cocod’Or』が最もJAZZである所以なのだ。

まだまだ猛暑が続く9月ではあるが、秋の夜長のJAZZのプレイリストに是非加えてみてはいかがだろうか。

プロフィール

沖縄県宜野湾市出身。1996年に、女性ボーカル&ダンスグループ・SPEEDのメンバーとしてデビュー。2000年のSPEED解散後は女優としても活動。2004年8月からはジャズプロジェクトCoco d’Orを開始。 ソロコンサートやイベント・ライブを定期的に続けている。(wikipediaより抜粋)

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