天才的な感性でアレンジされたショーロの名曲たち
アンドレ・マルケス(André Marques)は、今ブラジルでもっとも勢いのあるピアニストだろう。2021年5月にフォホーをテーマにしたソロ作品『Forró de Piano』をリリースしたばかりだが、今度はショーロにフォーカスしたピアノトリオのアルバム『Choro Universal』(2017年)がサブスク解禁され、2021年12月にリリースされた。
アルバムにはショーロを代表するスタンダードの(2)「Brasileirinho」、(5)「Carinhoso」、(9)「Odeon」といった曲が、リズムもハーモニーも大胆に変えられ、これまでにほかで聴いたこともないような斬新なアレンジで演奏・収録されている。一見感性の赴くままに演奏されているようだが、これらのアレンジからはむしろ数学的な観点で音楽を捉え、メロディーの音を軸にパズル遊びのようにリハーモナイズを組み立てていく様子が垣間見える。そしてこの理論的すぎてそれらを超越しているようにも感じる所謂“天才”ぶりは、彼の師匠であり長年のバンド仲間であるエルメート・パスコール(Hermeto Pascoal)ともやはり共通する部分のようにも感じる。
この作品を聴くなら、ぜひよく知っている曲から聴き始めてほしい。アンドレ・マルケスというピアニストのアレンジャーとしての仕事の素晴らしさを思い知らされるはずだから。
“ブラジルのショパン”の異名をとるエルネスト・ナザレーの(9)「Odeon」なんか、さりげなく本物のショパンのフレーズも紛れ込ませたりしていてとにかく面白い。
このアルバムをショーロだと思って手に取らない方がいい。これはブラジルが誇る従来のショーロ音楽ではなく、明かにジャズ、それもかなり前衛的な内容だからだ。…だが、ショーロと間違えて聴き始めてしまったほとんどの人に対して、それまでに知らなかった新しい音楽の聴き方や楽しみ方を開くような作品になるはずだ。
André Marques プロフィール
アンドレ・マルケス(André Marques)は1975年生まれ。1990年代半ばからエルメート・パスコアールのグループで活躍しながら、ソロでも活動を行っており、2015年にはジャズの巨匠ジョン・パティトゥッチ(John Patitucci)、ブライアン・ブレイド(Brian Blade)と共演したアルバム『Viva Hermeto』もリリースしている。
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André Marques – piano
Marcel Bottaro – contrabass
Rodrigo Digão Braz – drums