ウクライナ気鋭トランペッター、“終わり”に始まり“最終戦争”で終わる苦悶のジャズ・アルバム

Dennis Adu - Sunlight Above the Sky

ウクライナのトランペット奏者デニス・アドゥの2nd

ウクライナのトランペット奏者/作曲家、デニス・アドゥ(Dennis Adu)の新譜『Sunlight Above the Sky』(2021年)。近年優れたジャズ・アーティストの台頭著しいウクライナ勢の中でも最も注目すべき音楽家である彼の、2017年のデビュー作『Influences』に続く2作目だ。

伝統的なジャズに則った真摯な作曲/アレンジメントで技巧的かつ端正な演奏が魅力的な美しい音楽で、直接的・前衛的な政治的表現は演奏の中にはないものの、(1)「The End」に始まり(10)「Armageddon」というタイトルの曲が並ぶアルバム構成には複雑な情勢下で音楽に情熱を傾ける者の苦悩も滲む。

(9)「One of Those Sunday Nights At BarmanDictat」はウクライナの首都キーウ(キエフ)にあるジャズバー、BarmanDictatを舞台とした曲で、ここでは連夜良質なジャズのライヴが行われていた。こうした文化的な香りを放つ曲からは、ジャズがニューヨークだけのものではなく、世界中で共通の言語となっていることを改めて感じさせてくれる。

フリューゲルホルンの温かな音色が耳に心地よく響く(4)「Sunlight Above the Sky」

セプテット編成を基本とする今作ではウクライナ勢のほか、米国出身のピアニスト、グレン・ザレスキー(Glenn Zaleski)やテナーサックス奏者ルーカス・ピノ(Lucas Pino)も参加している。

楽曲はほとんどがデニス・アドゥの作曲/アレンジ。
(7)「Apple Seeds」は今作にも参加するアルトサックス奏者ボリス・モグリエフスキー(Boris Mogylevskiy)が作曲、そして(10)「Armageddon」はウェイン・ショーター(Wayne Shorter)の作曲。

ガーナ生まれ、ウクライナ育ちのトランペット・プレイヤー

デニス・アドゥは1987年ガーナ・ソルトポンド生まれ。2歳のときに家族とともにウクライナ中部で最大の都市クルィヴィーイ・リーフ(Kryvyi Rih)に移住している。7歳の頃にトランペットを始め、8歳でアレクサンデル・ゲベル(Alexander Gebel)のビッグバンドに招待された。

現在はウクライナのキーウ(キエフ)のジャズシーンの中心で活躍しており、これまでに国内や海外の数々のフェスなどに出演。2007年にウクライナ国内でベスト・トランペット奏者、2009年に最優秀音楽家賞といった受賞歴も。クインテットからビッグバンドまで様々な編成を率い演奏しており、2017年にマイケル・ディース(Michael Dease)、リンダ・メイ・ハン・オー(Linda May Han Oh)などを迎えた初リーダー作『Influences』をリリースした。

デニス・アドゥによるフリューゲルホルン四重奏で「Have Yourself a Merry Little Christmas」(映画『若草の頃』挿入歌)
(本作未収録曲)

Dennis Adu – trumpet, flugelhorn
Boris Mogylevskiy – alto saxophone
Oleksandr Yemets – double bass
Pavel Galitsky – drums
Alexander Malyshev – piano (8)
Glenn Zaleski – piano
Lucas Pino – tenor saxophone
Alexander Charkin – trombone

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