カタルーニャの歌手リディア・プジョル、27歳で逝去した伝説のSSWを歌う奇跡的な輝きの傑作

Lídia Pujol - Conversando Con Cecilia

リディア・プジョル、スペインのSSWセシリアを歌う

スペイン・カタルーニャのベテラン歌手、リディア・プジョル(Lídia Pujol)の新作『Conversando Con Cecilia』は、“セシリアとの対話”の題が示すとおり、若くして事故で亡くなったスペインの偉大なSSWセシリア(Cecilia, 本名:Evangelina Sobredo Galanes, 1948 – 1976)の楽曲集だ。

冒頭から強い物語性を感じさせる楽曲群が並び、美しい音 だけでなく、ただならぬ雰囲気を醸す歌唱にすぐに惹き込まれる。悲壮感漂う(2)「Se Crió en Conventos」から男声のチャントが荘厳な(3)「Veni Creator Spiritus – Gayatri mantra」、フラメンコギターも鋭く、力強く歌われる(4)「Soldadito de Plomo(ブリキの兵士)」、検閲のためセシリアの死後に発表されたシングル(5)「Doña Estefaldina」など現代的に蘇った素晴らしい音楽が続く。

(9)「Ramito de Violetas(スミレの花束)」はセシリアの最大のヒット曲のひとつで、リディアはここでは“愛と自由を過小評価する権力のシステムに基づく独房監禁の小さな花束”との表現を用い、国によって住民の意思が無視された2017年のカタルーニャ独立に関する住民投票をめぐる一連の出来事になぞらえている。

(9)「Ramito de Violetas」

(10)「Cíclope」はスペイン内戦(1936 – 1939)の結果誕生し1975年のフランコ将軍の死まで続いたフランコ独裁政権下で検閲に遭ったという楽曲で、テレビなどの特定のメディアのみを介してこの世界を見ることの危険性を訴える。

(15)「Nada de Nada」も実存主義的な哲学が表れたセシリアの代表曲のひとつだ。世界的なパンデミックのなか、リディアは同じ空の下に閉じ込められたそれぞれの人々に想いを寄せる象徴的な楽曲としてこれを取り上げている。

(15)「Nada de Nada」。MVはCovid-19による外出制限の中で多くの人々によって撮影された空の映像を繋げて作られている。

アルバムは全20曲と聴き応えも抜群。セシリアの音楽は日本ではほとんど知られていないが、独裁政権の抑圧の中で自身を表現し続けたアーティストの存在を知り、記憶に留めるには最高のアルバムだ。

スペインの歴史と現在に深くリンクした作品

リディア・プジョルは1968年バルセロナ生まれのシンガーソングライター。イディッシュ、ケルト、セファルディム、フラメンコといった音楽文化に影響を受けている。1990年代にデビューし数多くの作品を発表してきた。

幼少時からセシリアの音楽には接してきたが、今作をレコーディングするきっかけとなったのは2017年のカタルーニャ独立運動に際し、唐突に(16)「Mi Querida España(私の愛するスペイン)」が頭の中に流れてきたことなのだと述べている。彼女はすぐにYouTubeでセシリアのMVを観て、カヴァーし歌う機会を設けることを思い立った。

リディアはセシリアの音楽について、このように語っている。

セシリアの歌は、メディア、文化、政治、家族、宗教などの仲介者を沈黙させ、私たちが何者なのか、何を考えているか、そして私たちの最も深い願望が何であるかを自問するように私たちを誘っています。

www.redescena.net

アルバムがリリースされた2021年はセシリアの没後45年の節目でもある。
様々な文化を学んだ視点から自国を見つめ直したリディア・プジョルは、セシリアという稀代のシンガーソングライターの存在の普遍性を今あらためて世界に発信する。

スペインで語り継がれるSSW、セシリア

今作でリディア・プジョルがカヴァーしたセシリア(Cecilia)は1971年にデビューし、わずかな活動期間に3枚のアルバム、10枚のシングルをリリースし大ヒットさせた女性シンガーソングライター。彼女の芸名はデビュー前年の1970年に米国のフォーク・デュオ、サイモン&ガーファンクルが発表した楽曲「Cecilia(邦題:いとしのセシリア)」に因んでおり、彼女の作風も米英のフォークに強く影響されていた。
歌詞は実存主義やフェミニズムなど個人的な視点から社会を風刺したものが多く、多くの支持を得た。

1976年にマドリードでのレコーディングに向かう途中、悲劇的な自動車事故で死去。享年27歳。
彼女の死後もシングルや数々のコンピレーション盤(ベスト盤『Cecilia: 20 Grandes Canciones』がおすすめ)がリリースされ、その存在と音楽は今なお色褪せていない。

Lídia Pujol – vocal
Dani Espasa – piano
Dario Barroso – classical guitar, electric guitar
Xavi Lozano – flute, effects
Dídac Fernández – drums
Carlos Montfort – violín, guitalele
Marçal Ayats – cello
Miquel Àngel Cordero – contrabass, electric bass
Ismael Alcina – fretless bass

Lídia Pujol - Conversando Con Cecilia
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