現代ジャズの洗練とアフリカ由来の野生味が同居する、才女アン・パセオの傑作新譜

Anne Paceo - S.H.A.M.A.N.E.S

洗練された技術で音楽元来の喜びを表現するアン・パセオ新譜

現在進行形のコンテンポラリー・ジャズの洗練を纏いながら、土着や野生を匂わせる驚くべき作品だ。『S.H.A.M.A.N.E.S』というタイトルも見事にその言葉(シャーマン=祈祷師)が喚起させるイメージが音に一致する。

これはフランスの気鋭ドラマー/シンガーソングライター、アン・パセオ(Anne Pacéo)の2022年の新作だ。これまでの作品も数々の賞に輝くなど現在のフランスのジャズ界にとどまらず世界的な注目を集める才女は、この新作で二人目のドラマーを参加させるという選択をした。彼、ベンジャミン・フラメント(Benjamin Flament)はドラムセットに多数の金属製の楽器を組み込んだユニークな表現を得意とし、アン・パセオの精神世界をより深く探求するようにリズムを増強していく……。

(1)「Wide Awake」から、このアルバムが傑作であることを確信させてくれる。
アン・パセオがメインヴォーカルを取りながら、ほかにも二人の女性ヴォーカリストがリズミカルかつ人の声でしか表し得ないパートを担当。ツインドラムの重厚なリズムのサポートを受けたトニー・パエルマン(Tony Paeleman)のソロも空気を切り裂くような鋭さだし、いきなり視聴者を彼女の世界観に引き摺り込んでいく。

(1)「Wide Awake」

アン・パセオがカマレ・ンゴニ(kamele n’goni)という西アフリカの楽器を操る(3)「Reste un oiseau」も回帰の地としてのアフリカを想起させるし、続く(4)「Piel」の幽玄なイントロやコーラス、リズムは人類屈指の名曲に数えられるべき素晴らしさだ。クリストフ・パンザーニ(Christophe Panzani)によるサックスの咆哮も響き、3分強の短さながら今作を代表するトラックと言えるだろう(ぜひライヴで聴いてみたい楽曲だ)。

(3)「Reste un oiseau」

Anne Pacéo プロフィール

アン・パセオは1984年に画家の母親、アマチュアギタリストの父親のもとフランス西部のニオールで生まれ、子供時代の数年間を西アフリカのコートジボワールで過ごしている。
10歳の頃からドラムの練習を始め、1996年に家族でパリに移住し、19歳の頃からプロの打楽器奏者として活躍。2008年にピアノトリオ編成で最初のリーダー作『Triphase』をリリース。当時はオーソドックスなアコースティック・ジャズだったが、2016年作『Circles』頃からエレクトロミュージックやワールドミュージックとの境界が曖昧になり始め、現在のスタイルへと変化していった。

彼女はこれまでにアーチー・シェップ(Archie Shepp)、ローダ・スコット(Rhoda Scott)、マイケル・リーグ(Mickael League)、ビレリ・ラグレーン(Biréli Lagrène)、アンリ・テキシェ(Henri Texier)、イブラヒム・マアルーフ(Ibrahim Maalouf)、ミシェル・ルグラン(Michel Legrand)などなど多数の国際的アーティストと共演を行っている。

2020年には『Bright Shadows』と同じチームでEP『Samâ』をリリース。2021年には自身のレーベルを始動した。

Anne Paceo – drums, vocals, kamele n’goni
Isabel Sörling – vocals
Marion Rampal – vocals
Christophe Panzani – saxophone, clarinet
Tony Paeleman – keyboards, bass station
Benjamin Flament – metallophone, drums

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