反アパルトヘイトの象徴・歌姫ミリアム・マケバの功績を称えるSomi、音楽の役割の示唆に富む新譜

Somi - Zenzile: The Reimagination of Miriam Makeba

Zenzile: The Reimagination of Miriam Makeba

ルワンダとウガンダにルーツを持ち、人類学やアフリカン・アートの研究家としても知られるNYの歌手ソーミ(Somi)の新譜『Zenzile: The Reimagination of Miriam Makeba』は、“ママ・アフリカ”の愛称で知られる南アフリカの歌手ミリアム・マケバ(Zenzile Miriam Makeba, 1932 – 2008)を称える作品だ。

本作について紹介する前に、まず最初にミリアム・マケバについて簡単に紹介しておく必要があるだろう。

“ママ・アフリカ”ミリアム・マケバの人生

ミリアム・マケバはヨハネスブルグの経済的に豊かではない家庭の出身。6歳の頃に父親を亡くし幼少時から就労したが、歌が好きでその才能に恵まれていた。
彼女は南アフリカの人気バンド、マンハッタン・ブラザーズ(Manhattan Brothers)のヴォーカリストとして1950年代にデビュー。50年代末には全米をツアーし人気となり、アフリカ大陸の歌姫として知られることになった。マンハッタン・ブラザーズを去ったあとは女性メンバーだけで構成されたグループ、スカイラークス(The Skylarks)を結成。ジャズと南アフリカの伝統曲をミックスさせた独自のスタイルで人気を博した。1966年にはハリー・ベラフォンテとの共作『An Evening With Belafonte/Makeba』で、アフリカ出身の黒人女性として初めて米グラミー賞を受賞している。

彼女は歌を通じて当時の南アフリカのアパルトヘイト体制を批判し続け、政府による市民権の剥奪や歌の検閲などによって母国を追放され欧米やギニアなどでの30年以上の亡命生活を余儀なくされたが、欧米での歌手活動を通じて世界的に広く知られる最初のアフリカ出身の歌手のひとりとなり、人々の南アフリカ政治への関心も掻き立てた。

アパルトヘイトが崩壊した90年代にようやく母国に帰還。反アパルトヘイト闘争を象徴する人物として評され、ネルソン・マンデラも「彼女の音楽は私たち全員に強力な希望の感覚を刺激した」とマケバへの深い敬愛を示している。

代表曲「Hapo Zamani」を歌うミリアム・マケバ

ソーミが歌うミリアム・マケバの追憶

今作はそんな“ママ・アフリカ”ミリアム・マケバの曲や愛唱した曲をソーミが彼女への深い愛情とともに見事に歌い上げている。丁寧にアレンジされ再構成された名曲の数々は遠い南アフリカの苦しみの歴史や解放の喜びに想いを巡らせる。

よく知られるアメリカの伝承曲(2)「House of the Rising Sun」(朝日のあたる家)では、パーカッションによって強調されたアフリカ音楽に特徴的な三連符のリズムが原曲に漂う暗い情念を南アフリカの歴史に重ねさせる。

(7)「Pata Pata」は1967年のマケバの大ヒットで、かつては“世界で最も果敢で愉快な曲”とも呼ばれた曲。ここではマケバのインタビューがサンプリングされ、断片的・サウンドコラージュ的にリメイク。

ミリアム・マケバを代表する曲(7)「Pata Pata」を歌うソーミ

(8)「A Piece of Ground」は本作中間部のハイライトとなる1曲だ。ミリアム・マケバの代表曲のひとつとして知られるこの曲の歌詞では、海を渡ってやってきた白人による暴力の支配、南アフリカでの悲劇の始まりを描く。シンプルながら史実を切実に歌うミリアム・マケバの原曲は焦燥感のある3拍子だったが、ここでは4拍子のアレンジで蘇っている。アルバム全編でドラムを叩くネイト・スミス(Nate Smith)の強固な信念を感じさせるリズムは、歴史とは事実そのものを語り継がなければならないものだということを無言のうちに訴える。

(8)「A Piece of Ground」

今作はゲストも豪華だ。
(3)「Milele」にはフェラ・クティの未子シェウン・クティ(Seun Kuti)が、そして(5)「Love Tastes Like Strawberries」にはグレゴリー・ポーター(Gregory Porter)がヴォーカルでゲスト参加。
美しい弦楽四重奏のアレンジが施された(6)「Khuluma」には南アフリカのSSW、Msakiが力強い歌声を聴かせ、(13)「Jike’lemaweni」にはミリアム・マケバとも親交のあったアンジェリーク・キジョー(Angelique Kidjo)が、ラストの(17)「Mabhongo」は南アフリカ出身のアーティストとして初めてブルーノート・レコードからアルバムをリリースしたことで話題となったピアニストのンドゥドゥーゾ・マカティニ(Nduduzo Makhathini)も参加する。

豊かな人生経験が滲む歌手、Somi

ソーミ(本名:Laura Kabasomi Kakoma)は1981年アメリカ合衆国イリノイ州生まれのシンガーソングライター/劇作家/俳優。世界保健機関(WHO)の職員であった父親の仕事の関係で3歳の頃にザンビアに引っ越し数年間を過ごした。
イリノイ大学で人類学とアフリカ研究の学士号を取得し、卒業後は人類学の研究員として1年間ケニアやタンザニアを訪れたり、ナイジェリアで1年半のフィールドワークを行なったりしている。
ニューヨーク大学の大学院で修士号を取得し、現在もニューヨークを拠点に活動中。

自主制作のアルバム『Eternal Motive』(2003年)、『Red Soil in My Eyes』(2007年)を経て、インディーズのレーベルから発売された3rdアルバム『If The Rains Come First』(2009年)では彼女の長年のメンターであり、ミリアム・マケバの元夫でもある南アフリカ出身のトランペッターのヒュー・マセケラ(Hugh Masekela, 1939 – 2018)とも共演していた。

Somi – vocals
Herve Samb – guitars
Nate Smith – drums
Michael Olatuja – bass
Keith Witty – bass, percussion
Toru Dodo – piano
Mino Cinelu – percussion
Cobhams Asuquo – organ, piano, percussion
Phindi Wilson – chorus
Bongi Duma – chorus
Nhalanhla Ngobeni – chorus
Vuyo Sotashe – chorus
Lakecia Benjamin – alto saxophone
Jeremy Pelt – trumpet
Myron Walden – soprano saxophone, tenor saxophone
Mazz Swift – violin
Juliette Jones – violin
Jessica Troy – viola
Marika Hughes – cello
Ladysmith Black Mambazo – vocal
Gregory Porter – vocal
Angelique Kidjo – vocal
Seun Kuti – vocal
Thandsiwa Mazwai – vocal
Msaki – vocal
Nduduzo Makhathini – vocal

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