ブラジルを代表するショーロ・ピアニストのエルクレス・ゴメス、初の自作曲集『Bremen Solo』

Hércules Gomes - Bremen Solo

エルクレス・ゴメス、新章の幕開けを告げるソロピアノ

ショーロに特化したブラジルの名ピアニスト、エルクレス・ゴメス(Hércules Gomes)のアルバム『Bremen Solo』は、ドイツの歴史あるコンサートホール、ゼンデザール・ブレーメン(Sendesaal Bremen)で行われたソロライヴを録音した作品。収録の16曲はすべてエルクレス・ゴメス作曲のオリジナルとなっており、稀代のショーロ・ピアニストの魅力が余すところなく発揮された絶品だ。

エルクレス・ゴメスはこれまでの十数年のキャリアの中で、ショーロ黎明期の作曲家たちの楽曲をその優れた技巧と感性で現代に蘇らせ、高い評価を得てきた。そんな彼がヨーロッパ初のコンサートで、しかも自作曲のみを初めて本格的に世に問う作品という特別な位置づけのライヴであったことは確かで、その録音をアルバムという形で広く世界にリリースした今作は彼のキャリアにおいて誰の目にも明らかな転換点だ。

披露された楽曲の骨格は、特に1900年代初頭のショーロ黎明期の影響を強く感じさせるもので、エルネスト・ナザレー(Ernesto Nazareth, 1863 – 1934)やシキーニャ・ゴンザーガ(Chiquinha Gonzaga, 1847 – 1935)など、この時期に活躍した作曲家たちの手によるものかと思わせるほどにクラシカル。エルネスト・ゴメスのタッチはいつものように自信に満ち明瞭で、圧倒的なグルーヴ感を伴う。少なからず現代のジャズからの影響も感じさせる自由な表現力も兼ね備え、クラシックとポピュラーの垣根の存在しないショーロという音楽そのものと言えるだろう。

(2)「O Poderoso Mark」の2021年の演奏(アルバム収録版とは別音源)

全曲素晴らしいが、特に秀逸なのはブラジル北東部のリズムを取り入れた7〜10曲目の「Ciclo Pé de Serra」組曲。順にバイアォン、アハスタ・ペ、ショッチ、フォホーという異なる形式のリズムがうまく組み込まれ、とても表情豊かな楽曲と演奏だ。

Hércules Gomes 略歴

エルクレス・ゴメスは、1980年にブラジル・エスピリトサント州ヴィトリアで生まれたピアニスト/作曲家。家庭は貧しかったが、アマチュアのギタリストであった父親の影響で音楽に親しみ、13歳で独学によりピアノを始めた。友人のカシオのキーボードを借りて練習を重ね、地元でバンド活動を行い、エスピリトサント音楽学校に短期間在籍した後、2000年にカンピーナス州立大学(UNICAMP)のポピュラー音楽コースに入学し、学士号を取得。この頃にハダメス・ニャタリ(Radamés Gnattali, 1906 – 1988)の弟子だったゴゴ(Hilton Valente “Gogô”)らに師事し、ショーロのピアニストとしての基礎を育んでいる。

彼の音楽スタイルはブラジル伝統のショーロを基調とし、ポピュラー音楽とクラシック技法を融合させた独自の表現を特徴とする。歴史的なピアニスト/作曲家であるエルネスト・ナザレー、シキーニャ・ゴンザーガやチア・アメリア(Tia Amélia, 1897 – 1983)らの作品を現代的に再解釈・編曲し、ブラジルのピアノの伝統を革新。2012年に第11回ナボール・ピレス・カマルゴ賞(楽器奏者部門)を受賞したのを契機に、サンパウロ歴史地理研究所から百周年勲章を授与された。2014年にはMIMOインストゥルメンタル賞の第1回受賞者となり、2020年にはサンパウロ市民文化賞を受賞するなど、国内で高い評価を得ている。

2013年に初のソロアルバム『Pianismo』をリリースし、以降『No Tempo da Chiquinha』(2018年)、『Tia Amélia para Sempre』(2020年)、『Sarau Tupynambá』(2022年)、そして2025年の『Bremen Solo』と作品を発表している。

Hércules Gomes – piano

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