ブラジルが誇るピアノとヴォーカルの極上デュオ、第二弾アルバム
サンパウロに住むピアニストのサロマォン・ソアレス(Salomão Soares)と歌手ヴァネッサ・モレーノ(Vanessa Moreno)による『Yatra-Tá』(2021年)は、数々のMPBの名曲を即興性の高い自由なピアノとヴォーカルのみでカヴァーした素晴らしい作品だ。
二人の共演作としては2019年の傑作『Chão de Flutuar』以来となるが、今回もまたインパクトは大きい。ピアノもヴォーカルも若いながら名手の域に達した“凄み”があるが、近寄り難さはまるでなく、近所の顔見知りのような親近感を感じさせるような不思議な演奏。本当に優れた音楽家というものは得てしてそういうものかもしれないが、二人の人間的な温かさや魅力の成せる業のようにも思える。
(1)「Yatra-Tá」はブラジリアン・フュージョンの女王的存在のタニア・マリア(Tania Maria)の名曲。タニアの持つ強大なエネルギーとはまた別の高度な洗練を湛えた名演だ。
ミルトン・ナシメント(Milton Nascimento)作の(2)「Testamento」には現代MPBを代表する歌手であるモニカ・サウマーゾ(Mônica Salmaso)がゲスト参加。彼女もまた人間的な魅力に満ちた偉大な音楽家だが、ここではブラジル音楽の優れたシンガーの次世代を担うヴァネッサへの愛情を感じさせるデュオを披露している。
ほかにもジョイス(Joyce)作の(3)「Mistérios」、ヘナート・ブラス(Renato Braz)をゲストに迎えたルイス・ゴンザーガ(Luiz Gonzaga)作の(6)「A Vida Do Viajante」、レニーニ(Lenine)の(11)「Leão do Norte」などブラジルの様々なジャンルの中から幅広く優れた音楽を選曲。自由な解釈で朗々と歌い上げる。
Salomão Soares プロフィール
ピアニストのサロマォン・ソアレスはブラジル北東部のパライーバ州の自然豊かな地で生まれた。父親はルイス・ゴンザーガ、パウリーニョ・ダ・ヴィオラ、エリス・レジーナなどを聴き、母親もギターをつま弾き歌うという音楽好きの家庭で育ち、サロマォン少年も街のバンドでサックスを吹いたりパーカッションを叩いていた。2008年から作曲や編曲に没頭し、サンパウロに移住しエルメート・パスコアール・グループの鍵盤奏者アンドレ・マルケスに師事。音楽院でポピュラーピアノを学び、2017年にはスイスのモントルー・ジャズフェスティヴァルのピアノコンクールのファイナリストに。
これまでにエルメート・パスコアール、トニーニョ・フェハグッチ、レニー・アンドラーヂなど巨匠たちとも共演し、ここ数年のブラジル音楽界で最も注目されるピアニストのひとりとなっている。
Vanessa Moreno プロフィール
一方のヴァネッサ・モレーノは15歳の頃からギターを弾き始め、音楽を始めている。彼女の家庭環境も音楽的に恵まれており、ガットギターでサンバなど弾く父と、エリス・レジーナやミルトン・ナシメント、さらにはピンク・フロイドやイエスなどのプログレッシヴ・ロックも好む母と共に音楽を楽しんでいたという。
彼女はサンパウロの市立音楽学校で1年間クラシックの声楽を学んだが、ほどなくしてポピュラー音楽の学校に転学し知識と技術を深めた。ダニ・グルジェルによって“ノヴォス・コンポジトーレス(新しい作曲家たち)”のひとりとして見出され、元夫でベーシスト、フィ・マロスティカとの共同名義でリリースした『Vem Ver』(2013年)は日本でも注目を集めた。
Salomão Soares – piano
Vanessa Moreno – vocal
Guests :
Mônica Salmaso – vocal (2)
Renato Braz – vocal (6)