イングランド育ちのシタール奏者Jasdeep Singh Degun デビュー作
北インドのパンジャーブ州にルーツを持ち、イングランド北部のリーズで生まれ育ったシタール奏者/作曲家ヤスディープ・シン・デグン(Jasdeep Singh Degun)のデビュー作『Anomaly』。北インド古典音楽を軸にしながら、西洋古典音楽やジャズといった要素を加え、外向的で完成度の高い作品に仕上がっている。
今作にはインド系イギリス人音楽家で最も世界的に知られた存在であろうニティン・ソーニー(Nitin Sawhney)をはじめ、イギリスのインド系コミュニティを中心に総勢33名のミュージシャンが参加している。絢爛なストリングス・オーケストラはサリー・ハーバート(Sally Herbert)が指揮を担う。シタールやタブラといったインドの伝統楽器が軸だが、サウンドの質感はむしろ現代的なポピュラー音楽のそれで、その辺りはやはり伝統音楽には異質なプログラミングされた音が少なからず含まれていることが大きいように思える。
どの曲も完成度が高いが、中でもニティン・ソーニーとの共作(3)「Translucence」や二人のインド系女性シンガーを迎えた(5)「Sajanava」、リズムが迷子になりそうになる15/8拍子の(6)「Enigma 7.5」などが面白い。
圧巻なのは21分半に及ぶインド古典音楽的宇宙観の大作(11)「Mahogany」。同じくイギリスに住む女性シタール奏者、ルーパ・パネサー(Roopa Panesar)をゲストに迎え、2本のシタール、タンブーラ、タブラが深淵に鳴り響く素晴らしい音楽を奏でている。
この聴きやすさはイングランドに住むインド人という彼ならでは。
伝統を受け継ぎつつ自然体で自身の表現を試みた、優れた作品だ。
Jasdeep Singh Degun 略歴
ヤスディープ・シン・デグンはNational Indian Arts Awards 2016で“ミュージシャン・オブ・ザ・イヤー”を受賞し、インドの古典音楽と現代の大衆音楽のシーンを結びつける新星として急速にその名声を拡大している。これまでにバッキンガム宮殿、ドーハの円形劇場、ロイヤル・アルバート・ホールなど、国際的な舞台に立ち演奏。敬虔なシーク教徒としても知られ、イギリス社会の中で生きる異質で変則的・例外的な存在 = “Anomaly”としての表現を追求する。
彼はいう:
「シーク教徒は、音楽は光であり、知識であり、あるいは神への梯子であると信じています。だからこそ、音楽は普遍的な力を持ち、人々をひとつにするのです」