バジ・アサド、アフロ・ブラジル文化を体現する新作
ブラジルのSSW/ギタリストのバジ・アサド(Badi Assad)の2022年『Ilha』がリリースされた。カンドンブレなどのアフロ・ブラジル文化に大きな影響を受けたサウンドでスピリチュアルな問いを投げかける今作は、彼女のポップ・アーティストやシンガーソングライターとしての魅力にあらためて気付かされる内容だ。
プロデュースにはマリア・ベターニア(Maria Bethânia)、エミシーダ(Emicida)、マリアーナ・アイダール(Mariana Aydar)らとの仕事で知られるマルシオ・アランチス(Marcio Arantes)を起用。マルシオはエレクトリック・ギターやベースも担当しサウンドの核を担っている。 (5)「Ilha do Amar」にはダニ・ブラッキ(Dani Black)がヴォーカルとギターでゲスト参戦。バジ・アサドとの作曲のパートナーとしてもシコ・セーザル(Chico César)、アルジーラ・エスピンドーラ(Alzira Espíndola)などが名を連ねている。
二人の兄同様に世界レベルの卓越したギタリストとして知られる彼女だが、本作もギター演奏が目立つことはなく、ギターはあくまで彼女のヴォイス・パフォーマンスの引き立て役に徹する。──そう、ただの“ヴォーカル”と言うにはあまりに桁外れの表現力を持つ“ヴォイス・パフォーマンス”。クラシック・ギターの分野においてあまりに偉大で有名な兄たちの陰に隠れてしまいがちなバジ・アサドだが、彼女は彼女らしい独自の路線でブラジルを代表する文化の体現者となっていることを証明する作品だ。
バジ・アサドは本作について、次のような哲学的な定義をしている。
このアルバムは、私たちがどこから来たのか、女性的なエネルギーと男性的なエネルギーの対立と補完について、そして島に象徴される安全な場所を発見したことについての考察を提案しています。
globo.com
私たちは、どのように最初の果実を受け取るのでしょうか?
また、このアルバムは、集団の幸福や人類の進化のためではなく、権力の征服のために統治する社会がもたらす破滅的な結果の証拠と、言葉についての考察をもたらすものです。
アサド兄弟の妹、バジ・アサド 略歴
バジ・アサドは1966年サンパウロ生まれ。主にクラシックの分野で活躍するギタリスト、セルジオ(Sergio Assad, 1952 – )とオダイル(Odair Assad, 1956 – )の“アサド兄弟”は実兄。
レバノン系移民であり、ショーロのバンドリン奏者だった父は著名なアルゼンチン人ギター奏者モニーナ・タヴォラから子供たちにギターを習わせるため、1969年に家族を連れてリオデジャネイロに引っ越している。
バジ・アサド自身も幼少時から父や兄の影響でギターを始めており、リオデジャネイロ大学ではクラシックギターを専攻。1984年にリオデジャネイロで開催された器楽のコンクールで優勝、1987年にはベスト・ブラジリアン・ギタリストに選出されるなど兄同様に注目され、その後も米国の雑誌『ギター・プレイヤー』が世界に革命をもたらすギタリストとして彼女を選出するなど、ブラジルでもっとも優れたギタリスト/ヴォイスパフォーマーとして今日まで活動している。
Badi Assad – vocal, guitar
Thomas Harres – drums, percussion
Marcio Arantes – bass, electric guitar, 7-string guitar, samples, voice
Gil Duarto – trombone, flute
Ale Ribeiro – clarone, clarinet
Dani Black – vocal, guitar (5)