グラミーも認める現代型ソウルシンガー
レジェンドイズバック、00年代のR&Bが帰ってきた。ジョン・レジェンド(John Legend)の最新作で初のセルフタイトル『Legend』を聴いた率直な感想はこうだ。
デビュー作『Get Lifted』は04年。 3つのグラミーを獲得し、早くから注目を集めたジョン・レジェンドの音楽は 00年代のR&Bにおいて、一種独特の存在感を放っていた。 ニーヨ(Ne-yo)を筆頭にマリオ(Mario)、マーカス・ヒューストン(Marques Houston)、レイ・J(Ray J)、トレイ・ソングス(Trey Songs)、オマリオン(Omrion)等、黄金期を迎えた00年代R&Bであったが、R&Bシンガーをアイドルのようにもてはやし、マッチョで屈強な男が甘い歌声で女の子を口説くものや、クラブバンガーな楽曲が量産されていたとも記憶している。もちろん良作も非常に多く、そういった意味で黄金期であることは間違いないのだが、似たような楽曲が大量生産・大量消費もされていた、そんなイメージだ。
そんなある種のナルシシズム溢れる00年代R&Bにおいて、聴き手が主語の音楽を歌い続けていたジョン・レジェンド。1st収録の「Ordinary People」や2nd収録の「Heaven」など、初期作ではゴスペルルーツの彼らしい楽曲も多く聴かれたが、そのソウル愛溢れる楽曲や歌声から、個人的に現代のスティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)と勝手に形容しており、同じくソウル大好きなHipHopバンド、クエスト・ラブ(Quest Love)率いるザ・ルーツ(The Roots)と競演した企画盤『Wake Up』を聴けば、それが誇張でないことが実際にわかるはずだ。
そんなジョン・レジェンドの最新作である本作は約20年もの間、現代R&Bのメインストリームに居続けている彼にしか出来ないR&Bの歴史の教科書と言ってもいいものであり、それがまったく違和感なくジョン・レジェンド・サウンドとして受け入れられることもまた、彼がデビュー時から色褪せることないタイムレスな作品を作り続けてきた証左とも言えるのではないだろうか。
ダンスナンバーからソウル、ゴスペルまで多様性に満ちたACT 1
本作は初の2枚組となっている。
ジョン・レジェンド自身が「アクトIは欲望、自己、セックス、冒険に満ちた土曜日の夜の世俗的、官能的な喜びを、癒し、親密さ、魂の叫び、そして献身に焦点を当てた、日曜日の朝の感覚を表したもの」と発言する通り、簡単にいうとクラブサイドとメロウサイドと言った構成だ。
レジェンドらしい、いなたいソウルナンバーの(1)「Rounds」で幕を開けるアクトIは、見せる表情もそのコンセプトらしく多様性に満ちている。(2)「Water slide」は今時のダンスナンバー。3rdアルバム『evolver』にてアウトキャスト(Outcast)のアンドレ3000(Andre 3000)を迎えた「Green Right」でも同様のアプローチを行っており、約15年前の当初から既に2022年現在のR&Bフォーマットに乗っていたことがわかる好例である。
(3)「DOPE」はファレル・ウィリアムズ(Pharrell Williams)のペンを彷彿とさせる歌ものクラブナンバー。(4)「Strawberry Blush」は懐かしさと現代性が同居する、まさに00年代といった不思議な感覚を味わえるジョン・レジェンドの真骨頂ともいえる絶妙なバランス感覚を備えたソウル楽曲だ。(5)「Guy Like Me」のジョン・バディステ(Jon Batiste)を思わせる現代風ダンスソウルを経て、シングルカット(6)「All She Wanna Do」へと突入する本作。ジャスティン・ティンバーレイク(Justin Timberlake)の16年作「Can’t Stop the Feeling」を思わせるダンスポップは、現在FMラジオなどでヘビロテされていることからも今年の顔となるに違いない1曲だ。(7)「Splash」は00年代のR&Bの美味しいエキスが見事に抽出された永久保存版の佳曲。ジェネイ・アイコ(Jhene Aiko)の声がまたアシャンティ(Ashanti)のようで当時を蘇らせてくれる。(8)「You」は同様に00年代的でもあるものの、微妙に後ろでオートチューンを使っているあたり、ジョン・レジェンドらしい70年代への目配せを感じる。その他、透明感溢れるピアノの音が印象的な(8)「Fate」、ジャズミン・サリヴァン(Jazmine Sullivan)とのデュエットでゴスペルを披露する(9)「Love」と、いずれもジョンレジェンドらしさが詰まった1曲だ。
神性を感じる神々しさをまとったACT 2
一方、メロウサイドのACT 2は、まさにジョン・レジェンドというべき神々しさと慈愛に満ちた作品に仕上がっている。
穏やかに幕を開ける(1)「Memories」、ヒリヒリするような感情がほとばしるR&B(2)「Nervous」に続く(3)「Wonder Woman」は、”You’re Superhuman,And I’m just a man”と歌われるとおり、00年代R&Bのナルシシズムとは無縁の、ジョン・レジェンドらしい女性賛歌。(5)「I Want You To Know」はレゲエフォーマットを使ったすべての人類に捧げる人生賛歌であるし、とにかく慈しみ深いジョン・レジェンドを堪能できるのがACT 2の大きな特徴だ。そしてすべての楽曲の根底にあるのが、圧倒的な「声」の力である。ACT 2に関しては、トラックがどうの、この音がどうのといった解説は一切不要。余計な情報は一切排除して、ただただシンプルなトラックとジョン・レジェンドの声に是非耳を傾けてほしい。
きっと、あなただけのお気に入りの曲が見つかるはずだ。
R&Bの第一線にいながら、変わらず本物の「ソウル」を体現し続ける男、ジョン・レジェンド。
本作のタイトルが表す通り、彼はもう既に「伝説」となっているのかもしれない。
プロフィール
ジョン・レジェンド(本名:John Roger Stephens)、1978年12月28日生まれ、アメリカ・オハイオ州出身のシンガーソングライター、プロデューサー、俳優、社会活動家。
EGOT(イーゴット:エミー賞、グラミー賞、アカデミー賞/オスカー、トニー賞の4大アワード全てを受賞した人物)を達成した「初のアフリカ系アメリカ人男性」、そして「歴代達成者全16人のうちの1人」としての偉業を果たし、最も高い評価を得ているアーティストの1人である。
米オハイオ州スプリングフィールドに生まれ、幼少の頃からクラシックピアノやゴスペルに親しみ、地元の高校をわずか16歳で次席で卒業。優秀な成績から、ハーバード大学への入学許可や数々の奨学金のオファーを受けたが、最終的にペンシルヴェニアニア大学へ入学。大学時代には、全米トップの学生アカペラグループ「カウンターパート」のメンバー兼音楽監督を務めた。在学中にローリン・ヒルの傑作アルバム『ミスエデュケーション』(1998年)の「Everything Is Everything」でピアニストとして参加するなど、音楽家としての頭角を現す。
大学卒業後、経営コンサルタントとして働きながら音楽活動を続け、カニエ・ウェストと運命的出会いを遂げた。カニエが設立したレーベル「G.O.O.D.Music.」と契約し、2004年12月にアルバム『ゲット・リフテッド』(全米4位)でデビューを果たし、第48回グラミー賞最優秀新人賞を含む3部門を受賞する。2006年2ndアルバム『ワンス・アゲイン』(全米3位)、2008年に3rdアルバム『エヴォルヴァー』(全米4位)、2010年にはザ・ルーツとの全編コラボ・アルバム『ウェイク・アップ!』、そして2013年、自身初の全米1位シングル「オール・オブ・ミー」を収録した4thアルバム『ラブ・イン・ザ・フューチャー』(全米4位)を発表する。「オール・オブ・ミー」は全米レコード協会の歴史上でも高い認定を受けた曲として知られ、ジョン・レジェンドの代表作ともなっている。2021年、コロンビア・レコードからリパブリック・レコードへ移籍し、第一弾シングルとなる「ユー・ディザーヴ・イット・オール」を発表した。
またジョン・レジェンドは、アカデミー賞作品賞受賞の『それでも夜は明ける』サウンドトラック監修や、大ヒット映画『ラ・ラ・ランド』への出演、NBC『ジーザス・クライスト・スーパースター・ライヴ・イン・コンサート』のジーザス役を演じ、またプロデューサーとして、エミー賞の「バラエティ・スペシャル(ライヴ)部門」受賞、さらに自身の映像制作カンパニー「Get Lifted Film Co.」の代表を務め、映画分野でも大きな活躍をしている。
2015年にアメリカの刑事司法制度の改革を目指した「#FREEAMERICA」キャンペーンを立ち上げ、2021年には、人種的差別の影響を受けるコミュニティ支援を目的とした「HUMANLEVEL」を設立するなど、社会活動家としても積極的に取り組んでいる。
(Univesal Music Japan アーティスト公式サイトより)