深い精神世界に誘う。現代NYジャズの中心で活躍するイスラエル人&ベナン人の初デュオ作

Ziv Ravitz - Within This Stone

ジヴ・ラヴィッツ&リオーネル・ルエケ、初のデュオ・アルバム

イスラエル出身ドラマー、ジヴ・ラヴィッツ(Ziv Ravitz)とベナン共和国出身のギタリスト、リオーネル・ルエケ(Lionel Loueke)とのスピリチュアルなデュオ作 『Within This Stone』がリリースされた。丁寧に演奏され、深淵に響く音がリスナーを彼らの内なる精神的音世界に誘う、哲学的な性質を持った作品だ。

これは人々がCovid-19の恐怖に慣れ始めた2021年の12月に、スイスのムーリという小さな町にあるジャズクラブで行われた二人の国際的アーティストの初めての共演コンサートの記録である。映像にあるように、二人のミュージシャンはステージ上でわずか3メートルほどの距離をあけて向かい合って座り、対話を楽しむように音をあわせる。
ここには“オンライン配信”では得られない人間同士の生のセッションがあり、二人もその喜びをじっくりと味わっているようだ。師であるハービー・ハンコック曰く“音楽の画家”と呼ばれるリオーネル・ルエケと、“イスラエルジャズのペースセッター”と称えられるジヴ・ラヴィッツはパンデミックによる人々の心に生じた大きな穴を癒し埋めるように音を重ねていく。

(7)「Aziza’s Dance」

収録曲は二人がそれぞれ持ち寄ったオリジナル。ラストに収められた(8)「Vi Gnin」は戦争で母親を失った子どもたちのためにリオーネル・ルエケが書いた曲で、リオーネル自身のヴォーカルが鎮魂の祈りのように優しく響く。

私の子どもよ、泣かないで
戦争があなたの母親を連れ去った
風がバラを運ぶように
心配しないで、彼女はあなたを見守っている

Vi Gnin

このアルバムに収められたすべての演奏は、決してポップでキャッチーではない。
だが人間の心情というものは元来そういうもので、たとえ表面的に明るくわかりやすく振る舞っていても、その陰には必ず心の中に留められた複雑な感情が潜んでいる。
この作品で二人の稀有なアーティストが描く音の世界はそうした機微な心情に触れるもので、聴けば聴くほどにその深い精神的世界に吸い込まれてゆく。

(6)「Lullaby for Emma」は、ジヴ・ラヴィッツが娘エマのために書いた曲。

イスラエル出身の天才ドラマー、Ziv Ravitz 略歴

ジヴ・ラヴィッツは1976年、イスラエル南部の古都ベエルシェバ生まれ。音楽一家に生まれた彼は幼少時からギターやキーボード、ドラムを学び、9歳からはドラムに専念。13歳の頃には既にプロとして活動を開始し、ベエルシェバやテルアビブのクラブなどで演奏を行った。

2000年に渡米しバークリー音楽院でジャズと作曲を学び、その後はニューヨークに移住。2001年にドイツ人ピアニストのフローリアン・ウェーバー(Florian Weber)とアメリカ人ベーシストのジェフ・デンソン(Jeff Denson)と共にトリオ・ミンサラ(Minsarah)を結成し、彼らの名を冠したデビューアルバム『Minsarah』は2006年にEnjaから登場した。

2009年には自身の初リーダー作『Images from Home』をリリース。サイドマンとしては同郷イスラエル出身のアヴィシャイ・コーエン(Avishai Cohen)、シャイ・マエストロ(Shai Maestro)、ヤロン・ヘルマン(Yaron Herman)といった数多くの名プレイヤーたちとの共演でも知られている。

ベナンから世界に羽ばたいたギタリスト、Lionel Loueke 略歴

ギターのリオーネル・ルエケ(Lionel Loueke)は1973年、西アフリカのベナン共和国生まれ。1990年にコートジボワールに移住、国立芸術研究所で学んでいる。
9歳頃から打楽器を演奏していたが、17歳の頃に兄の影響を受けギターを始める。ジョージ・ベンソン、ケニー・バレル、ジョー・パス、ウェス・モンゴメリーのスタイルに影響されたが、最初のギターを買うための50ドルを稼ぐために1年の歳月を要した。新品の弦を買うためにはナイジェリアの国境を越えなければならず、弦を買うお金さえなかった彼は自転車のブレーキケーブルで代用しようとしたが、それがギターのネックを損傷させてしまい、今度はギターを修理する職人を探す羽目になったというエピソードも。

1994年にフランス・パリに渡り、American School of Modern Music in Pari で学位を得ると、奨学生として1999年に米国のバークリー音楽大学に留学。卒業後はセロニアス・モンク・ジャズ・インスティテュード(Thelonious Monk Institute of Jazz)に在籍した。

2008年に名門ブルーノート・レコーズから『Karibu』でデビュー。2012年作『Heritage』はロバート・グラスパーがプロデュースしたことで話題を呼んだ。2005年の東京JAZZではハービー・ハンコック率いる新生ヘッドハンターズのメンバーとして来日している。

(1)「Chant」

Ziv Ravitz – drums
Lionel Loueke – guitar, vocals

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