ロシアを代表するピアノ奏者エフゲニー・レベジェフ、名曲カヴァーを中心とした慈愛のソロピアノ作

Evgeny Lebedev - Ballads

ロシアを代表するピアニスト Evgeny Lebedev、ソロピアノ新譜

先日、ロシアのピアノトリオ LRK Trio の新作『Prayer』について記事にしたが、その流れでトリオのピアニストであるエフゲニー・レベジェフ(Evgeny Lebedev)の2022年3月にリリースされていたソロ作『Ballads』を聴いてみたところ、これもあまりに美しく素晴らしい作品だった。

LRK Trioの諸作はオリジナル曲が中心だが、今回のエフゲニー・レベジェフのソロはカヴァー曲が中心となっている。有名な曲も多く、ビリー・ジョエルの(1)「Just the Way You Are」、古いジャズ・スタンダードの(2)「Blame It on My Youth」、エリック・クラプトンの(4)「Tears in Heaven」あたりは特に広く知られている曲だ。こうした曲を題材とし、エフゲニー・レベジェフは思慮深く丁寧に音を重ね、豊かなハーモニーと旋律を紡いでいく。あなたがもし米国の名手キース・ジャレット(Keith Jarrett)の名盤『The Melody At Night, With You』を聴いたことがあるなら、それに比肩する作品といえば話は早いだろう。

(1)「Just the Way You Are」

日本ではあまり一般的に知られてはいないと思われる楽曲との出会いも嬉しい。
たとえば(3)「I Asked the Ash Tree」は旧ソ連のアルメニア人作曲家ミカエル・タリヴェルディエフ(Mikael Tariverdiev, 1931 – 1996)の曲で、ロシアでは国民的人気を誇るといわれるコメディ映画『運命の皮肉、あるいはいい湯を』(1975年)の挿入歌として知られる曲だ。原曲は今聴くと古臭い短調の歌謡曲だがそのメロディーの美しさは特筆すべきところがあり、エフゲニー・レベジェフは本作で感情の昂りを効果的に抑制したり解放したりしながら5分間の物語をピアノで語る。間違いなく本作のハイライトとなる1曲だろう。

原曲は映画『運命の皮肉、あるいはいい湯を』の挿入歌。(3)「I Asked the Ash Tree」

アルバムの後半3曲、(6)「No Tears」から(8)「Mother’s Song」まではエフゲニー・レベジェフのオリジナル。

LRK Trio では時折斬新な音楽表現も見せる彼だが、今作においては持ち前の豊かな感受性と確かなテクニックを惜しげなく披露し、ポピュラー音楽と即興表現の歴史にひとつの楔を打つような最高の作品を送り出した。

Evgeny Lebedev プロフィール

1984年ロシア・モスクワ出身のピアニスト/作曲家エフゲニー・レベジェフは、ロシアの民族音楽をよく流す家庭で育ち、8歳の頃からアコーディオンの演奏を始めた。さまざまな音楽祭でフォーク・ミュージックを演奏した彼はいくつかのアコーディオンのコンテストで優勝も経験。15 歳の頃ジャズに憧れピアノの勉強を始め、1999年から2001年までモスクワ芸術大学でロシアを代表するジャズ・ピアニストのエフゲニー・グレチシェフ(Evgeny Grechischev)に師事。2002年にグネーシンのロシア音楽アカデミーに入学し、国際的に高く評価されている教授/パフォーマーであるイゴール・ブリル(Igor Brill)のもとで学んだ。

2004年、奨学金を得て米国ボストンのバークリー音楽大学に入学。ベーシストのマーカス・ミラー、サックス奏者デヴィッド・サンチェス、ギタリストのデヴィッド・フュージンスキーらとも共演した。

これまでにソロの他、自身のバンドであるLRK Trio、Evgeny Lebedev Trio といったグループで多くのアルバムをリリースしている。

エリック・クラプトンが4歳半で亡くなった息子を悼んで作曲した(4)「Tears in Heaven」のカヴァー。

Evgeny Lebedev – piano

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