4人のギタリストの歌で聴かせる美しすぎる南米音楽集
ブラジル・サンパウロの実力派ヴォーカリスト、ヘナート・ブラス(Renato Braz)と世界屈指のギター四重奏団として知られるクアルテート・マオガニ(Quarteto Maogani)が、南米の数々の名曲に挑んだ2015年作『Canela』は、南米のギターや歌を愛するすべての人におすすめしたい傑作だ。
アルバムはベネズエラの伝統歌で、カラカス出身の歌手セシリア・トッド(Cecilia Todd, 1951 – )が歌ったことでも知られる(1)「Pajarillo Verde」で幕を開ける。郷愁を誘うシンプルなマイナー調のコード進行、6拍子の軽やかなリズム、幾層にも重なる4本のギターの絶妙な絡まり、オーガニックで美しいヘナート・ブラスの声はこの作品が素晴らしい音楽体験をもたらすものだと確信させてくれる。
つづく(2)「La Jardinera」はチリの女性シンガーソングライターであり、歌を通じた社会変革を目指したヌエバ・カンシオン(新しい歌)運動の先駆者として知られるビオレータ・パラ(Violeta Parra, 1917 – 1967)のカヴァー。ヘナート・ブラスはここでも原詞のスペイン語で素晴らしい歌唱を聴かせる。
アルバムにはヘナート・ブラスが歌で参加せず、クアルテート・マオガニによるインストゥルメンタルも数曲存在する。中でも美しいのがパラグアイの名ギタリスト、アグスティン・バリオス(Agustín Barrios, 1885 – 1944)の名曲(3)「Julia Florida」だ。通常はソロギターで演奏されるこの曲だが、ここではギター四重奏にアレンジされ、4人の心を繋ぐ夢見心地で極上のアンサンブルが奏でられる。
アルゼンチンのSSWホルヘ・ファンデルモーレ(Jorge Fandermole, 1956 – )のチャマメの名曲(4)「Oración Al Remanso」も心が浄化される名演。
クアルテート・マオガニの新旧メンバーが参加
本作ではクアルテート・マオガニの新しいメンバーであるセルヒオ・バルデオス(Sergio Valdeos)を紹介している。彼はペルーで最も有名なギタリストの一人であり、同国を代表する歌手スサーナ・バカ(Susana Baca)のアレンジャーや伴奏者としても長年活躍してきた人物だ。
さらに、今作は2005年から2012年までカルテットに在籍した旧メンバーであるマウリシオ・マルケス(Mauricio Marques)も数曲で8弦のガットギターを演奏している。
ヘナート・ブラスの歌声は素晴らしく、どうしても耳を奪われるが、今作においてはぜひ何本ものクラシックギターが紡ぎ出す幻想的な音世界もじっくり味わいたい。
このアルバムはヨーロッパ人が持ち込んだナイロン弦のギターという楽器の、南米音楽における重要性をあらためて感じさせてくれる作品としても面白い。
選曲も素晴らしいが、アルバムを通しての“流れ”も素敵な作品だ。
ぜひ、シャッフルをせずに通して聴いてほしいと思う。
Renato Braz, Quarteto Maogani プロフィール
ヘナート・ブラス(Renato Braz)は1968年生まれ。母親が愛したホベルト・カルロスのロマンティックなボレロとバラード、そして父親の出身地であるブラジル北東部のダンス音楽──特に歌手/アコーディオン奏者のルイス・ゴンザーガが開発したバイアォンを聴きながら育ってきた。
1996年にデビュー作『Renato Braz』を発表し、優れた新人音楽家に贈られるシャープ賞を受賞するなど早くからブラジル国内で注目を集める。日本ではジョアン・ジルベルトのトリビュート作品『Silêncio』(2014年)以降、広く知られることになったブラジルを代表する歌手の一人である。
ブラジルを代表するギター・カルテットであるクアルテート・マオガニ(Quarteto Maogani)は1995年に結成。以降メンバーの入れ替わりはありつつも、クラシックからポピュラー音楽まで幅広いレパートリーを持つ合奏団として国際的な評価を得ている。
2019年作『Chovendo na Roseira』はブラジル音楽の重鎮、セルジオ・メンデス(Sergio Mendes)がプロデュース。これまでにシコ・ブアルキ(Chico Buarque)、ミルトン・ナシメント(Milton Nascimento)、ジルベルト・ジル(Gilberto Gil)、ミウシャ(Miucha)、ギンガ(Guinga)といったブラジルを代表するアーティストとの共演を重ねてきた。
Renato Braz – vocal
Quarteto Maogani :
Carlos Chaves – requinto guitar, 7-string guitar
Marcos Alves – guitar
Paulo Aragão – 8-string guitar
Sergio Valdeos – 7-string guitar
Mauricio Marques – 8-string guitar