既成のジャズに囚われない、ベートーヴェンへの探究が生んだ新しいjazzed-up『Kind of Beethoven』

Xavi Torres - Kind of Beethoven

スペイン出身のピアニスト、シャビ・トーレスによるベートーヴェン曲集

ピアノ、バスクラリネット、ドラムスという編成で繰り広げられるベートーヴェン・ピアノソナタの最高のジャズアップ作品が登場した。
『Kind of Beethoven』は、クラシックとジャズの両道で活躍するスペイン出身のピアニストであるシャビ・トーレス(Xavi Torres)のプロジェクトで、彼はこの作品でベートーヴェンの楽曲に新たな息吹を与える試みを行なっている。

クラシック音楽のジャズアップ(ジャズ化)は既に使い古されたテーマで、一般的にはその曲が持つ象徴的なメロディー部分をテーマとし、ジャズの様式であるテーマ─ソロ─テーマの構造で演奏される。シャビ・トーレスは楽曲を単なる素材のように扱うそうしたやり方ではなく、楽曲の構造をできる限り保ったままハーモニーやリズムに変化を加え、即興を加えたアプローチを試行。ソナタの枠組みや精神を維持したまま楽曲に新たな柔軟性を持ち込んだ。

(2)「Piano Sonata No. 8, Op. 13, “Pathétique”, 3rd mov」
ピアノソナタ第8番『悲愴大ソナタ』第3楽章。

バンドもスタンダードなピアノトリオ編成ではなく、バスクラリネットとドラムスという選択が活きている。これは極度なジャズ化ではなく、クラシックの室内楽の形態を残すことを意識したものだろう。バスクラリネットのヨリス・ルーロフス(Joris Roelofs)はブラッド・メルドーとの共演などでも知られる名手だし、ドラマーのホアン・テロル(Joan Terol)もマリア・シュナイダーやジェシ・ヴァン・ルーラーなど幅広い共演歴を誇る。いくつかの曲ではピアノとバスクラリネットのデュオで演奏され、それらはより室内楽的な色彩をもつ。

アンサンブルは有機的に絡まり合い、時間を超越し音楽を溶け合わせていく。
1991年生まれの才気ある音楽家であるシャビ・トーレスによる、19世紀初頭の偉大な“楽聖”への敬意と探究心、自由な発想が生み出した時代と時代を繋ぐ作品だ。

(1)「Piano Sonata No. 21, Op. 53, “Waldstein”, 1st mov」
ピアノソナタ第21番『ヴァルトシュタイン』第1楽章。

Xavi Torres – piano
Joris Roelofs – bass clarinet
Joan Terol – drums

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