多国籍ジャズ・クインテット Chai Masters、魔術的リアリズムを音楽で表現する圧巻のデビュー作

Chai Masters - Magic Realism

アムステルダム発、国際色豊かな超現実的ジャズ・クインテット

日常のなかの超現実を描いたジャケットが本作を象徴する。
多国籍の音楽家が集い、オランダ・アムステルダムで結成されたクインテット、チャイ・マスターズ(Chai Masters)のデビューアルバム『Magic Realism』は、その名の通り“魔術的リアリズム”をテーマとした興味深い作品だ。

マジック・リアリズム。ごく自然に日常の生活のなかに溶け込んだ、おおよそあり得ないと思える超現実的な描写は20世紀の文学を席巻し、ガブリエル・ガルシア=マルケスやホルヘ・ルイス・ボルヘス、日本においては安部公房といった作家たちが自身の作品のなかで魔術的リアリズムを体現し、世界中の読者を魅了し続けてきた。

アムステルダムの音楽院で出会った5人の若者──リーダーでトランペッター/作曲家のアントニオ・モレーノ・グラスコフ(Antonio Moreno Glazkov)、フランス出身のドラマーオーレル・ヴィオラ(Aurel Violas)、アルメニアとイランにルーツを持つベーシストのアリン・ケシシ(Arin Keshishi)、フランス出身ピアニストのベンジャミン・ティエボ(Benjamin Thiébault)、スペイン出身のテナーサックス奏者ルーカス・マルティネス・メンブリージャ(Lucas Martínez Membrilla)──、彼らもまたマジック・リアリズムに魅せられ、そしてその不思議で魅惑的な感覚を音楽表現に取り入れてきた。そのチャレンジの集大成となるこのアルバムで、彼らの試みは完全な成功を収めたように思える。

アルバムはミヒャエル・エンデの小説『モモ』にインスパイアされた(1)「Momo, The Girl Who Knew How to Listen」で幕を開ける。“聴く力”で人々に気づきを与え、時間泥棒から街を救った少女の物語を追うように、時に激しく混乱し恐怖に打ち拉がれながらも答えを見つけエンディングを迎える楽曲構成が素晴らしく、単に作曲やアレンジ、優れたジャズ・アンサンブルの域にとどまらない、ストーリーテラーとしての彼らの実力を見せつける。

(1)「Momo, The Girl Who Knew How to Listen」

(2)「Magic Realism」も刺激的な曲だ。前半はごく自然に聴かせる7拍子、後半部は4拍子ながらまさしく魔術的で複雑な譜割を用い、物語は徐々に終盤の大円団へと向かっていく。

楽曲はチャーリー・パーカー(Charlie Parker)のカヴァー(7)「Segment」を除きメンバーのオリジナルで、(4)「The Sea Level」をドラマーのオーレル、(6)「Segment (Intro)」をピアノのベンジャミン、その他の全ての楽曲をトランペッターのアントニオが作曲している。

(3)「Of the Sea」

7曲目のチャーリー・パーカーのカヴァーも原曲を何倍にも複雑にした現代的なアレンジが施されており、彼らの創造力の高さが窺える。
これからの活躍が非常に楽しみなバンドだ。

Chai Mastersのライヴ演奏動画。ここでは女性歌手Liva Dumpeがゲスト参加している。

Antonio Moreno Glazkov – trumpet
Aurel Violas – drums
Arin Keshishi – electric bass
Benjamin Thiébault – piano
Lucas Martínez Membrilla – tenor saxophone

Chai Masters - Magic Realism
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