ユダヤ文化からJazzにアプローチするNigun Quartet 新作
つくづく、映画的な音楽を奏でるグループだと思う。
ユダヤの伝統文化に深く根ざしたイスラエルの4人組、ニグン・カルテット(Nigun Quartet)。宗教的・民族的な立場からジャズにアプローチする、20代から50代までの世代を超えたバンドである彼らの待望の第2作目『The Sacred and the Profane』も、デビュー作に負けず劣らずの素晴らしい作品だった。
アルバムタイトルは“聖なる者と俗なる者”の意味。
彼らの音楽は、即興の自由さとリズミカルで調和のとれた複雑さを、聴衆も歌えるほどのシンプルで反復的なメロディーと並置する。叙情的なハシディズム(有徳で思いやりのある行動であることを意味するヘブライ語を語源とする、超正統派のユダヤ教運動のこと)をジャズの自由さに結びつけ、楽曲の背景にある物語を、音に乗せて聴衆に伝える。その姿はまるで伝道師のようでもある。
「ジャズとは、精神的なつながりを実現するための非常に優れたプラットフォームなんだ」とサックス奏者のトム・レヴ(Tom Lev)は語る。
「今、この瞬間、この場で起こっていること。ジャズとはそういうものだ。ジャズとは、自分の精神的な実体を、今ここで、この音楽に持ち込むことなんだ。それが即興音楽のやり方なんだ」
ゲストが参加する楽曲も秀逸
カルテットのデビュー作である前作『Nigun Quartet』はメンバー4人のみで演奏されていたが、今作ではゲストも迎え彩りが加えられた。
(3)「Adon Olam」にはシンセサイザーでダヴィド・アダ(David Ada)が参加し、これまでのニグン・カルテットにはなかった現代的で独特かつ印象的な音空間を作り上げている。
さらに(7)「Ata Nigleta」には若手の人気ギタリスト、オムリ・バール・ギオラ(Omri Bar Giora)が参加。派手さはないがサックスのトム・レヴとともにフロントを張り合う。
Nigun Quartet プロフィール
サックスのトム・レヴ(Tom Lev)はバークリー音楽大学とリモン音楽学校を卒業し、フランク・ギャンバレ(Frank Gambale)、ラルフ・ピーターソン(Ralph Peterson)、デイヴ・サミュエルズ(Dave Samuels)、イダン・ライヒェル(Idan Raichel)など国内外の様々なミュージシャンと共演をしてきた。リーダー作こそないものの、イスラエルジャズのシーンでは欠かすことのできない音楽家だ。
ピアノのモシェ・エルマキアス(Moshe Elmakias)も近年イスラエルの音楽シーンで注目される存在だ。2016年のウンブリア・ジャズフェスティバルや2017年の紅海ジャズフェスティバルなど世界中のフェスに出演している。直近では若手ジャズハーモニカ奏者アリエル・バルト(Ariel Bart)のアルバムでも見事なサポートを見せていた。今作でも(8)「Druze Debka」の暴走寸前のソロなど存在感のあるプレイが光る。
ベースのオフェル・シュナイダー(Opher Schneider)は1990年代から活躍している。ステフォン・ハリス(Stefon Harris)、ドナルド・ハリソン(Donald Harrison)、アントニオ・ハート(Antonio Hart)、ビレリ・ラグレーン(Biréli Lagrène)といったミュージシャンとも共演。ニューヨークからイスラエルに戻ってからは敬虔なユダヤ教徒として日々を過ごすようになり音楽からはしばらく遠ざかっていたが、近年になってクレズマーなどのユダヤ音楽の研究に再び情熱を燃やし、ゆっくりとシーンに戻ってきた。
ドラムのヨッシ・レヴィ(Yosi Levy)はリモン音楽学校を卒業した後、レゲエやアフリカ音楽に傾倒。イスラエル国内外でルーツ・アフリカ(Roots Afrika)、シェビー(Chevy)といったバンドと共演を行ってきた。
Nigun Quartet :
Tom Lev – saxophone
Moshe Elmakias – piano
Opher Schneider – double bass
Yossi Levy – drums
Guests :
Omri Bar Giora – guitar (7)
David Ada – synth (3)