スペインのSSW、Pedro Guerra “旅”をテーマにした新譜
アフリカ大陸の北西・大西洋に浮かぶカナリア諸島出身のSSW、ペドロ・ゲーラ(Pedro Guerra)の2021年作『El Viaje』がとにかく素晴らしい。ナイロン弦ギターと歌を軸とした誠実な音作りを特長とする作品で、どこまでも内省的で穏やかな作風は疲れがちな多くの現代人の心に響くだろうと思う。
全曲がスペイン語で歌われる今作は、スペイン音楽を象徴するフラメンコのような激情はなく、どちらかというと南米アルゼンチンの音楽に近しい印象だ。リスナーに語りかけるようなペドロ・ゲーラの歌は彼が弾くギターやティンプレ(カナリア諸島に伝わる伝統的な弦楽器)の温かな音色に乗って優しい風のように吹きかける。
とにかく、彼の音楽はメロディーが絶品すぎる。
とくに真っ先に聴いてほしいのが(3)「Tú y Yo」と、(6)「Ruego」だ。
前者(3)「Tú y Yo」はスペインで最も人気のある歌手のひとりであるマヌエル・カラスコ(Manuel Carrasco)がゲスト参加し、ペドロ・ゲーラと極上のデュエットを披露。ブラシで演奏されるドラムスやダブルベースのふくよかな響きと、シンプルながら感情を揺さぶるコード進行(マイナー・コードのエンディングの余韻も良い…!)も含め、名曲と呼ぶにふさわしい。
(6)「Ruego」も今作随一の美しい楽曲だ。メキシコのソチミルコ運河での魔法のような夜、蝋燭に囲まれた祭壇と聖母マリアにインスパイアされたというこの楽曲は、歌詞も含め非常に感銘を受ける。
コーラス部分で彼は以下のような美学を歌う:
「私は迷わない/神々がいる祭壇から、天国とその先を否定する/グアダルーペの聖母に尋ねたんだ/永遠にあなたと一緒に死ねるようにと」──
アルツハイマー病をテーマにした(5)「Alzheimer」は、ずっと前に彼がゆっくりと記憶を失っていく祖母の病気を目の当たりにした経験を通じて書かれた曲だが、あまりに繊細なテーマだったためしばらく録音されることはなく、今作で初収録となった。
アルバムにはラテン・アメリカやアフリカのリズムを取り入れた楽曲も多い。
タイトルである『El Viaje』とは“旅”のこと。
この作品にはさまざまな場所や人、時代が紡いできた多様で美しい物語が収められている。ペドロ・ゲーラはギターやティンプレだけでなく、中南米の楽器であるトレス、クアトロ、チャランゴなどを弾いており、多彩な音楽文化への知見も作品の親しみやすさと奥深さに寄与しているように思う。
プロデューサーを務めるのは同郷カナリア諸島テネリフェ島出身のマルチ奏者であり、ダビッド・ビスバル(David Bisbal)やセルジオ・ダルマ(Sergio Dalma)、マヌエル・カラスコといったアーティストをプロデュースしてきたパブロ・セブリアン(Pablo Cebrián)。
Pedro Guerra 略歴
ペドロ・ゲーラは1966年にカナリア諸島最大の島・テネリフェ島に生まれた。父親はカナリア議会の初代議長であるペドロ・ゲーラ・カブレラ(Pedro Guerra Cabrera)。
テネリフェ高等音楽院でギターの勉強を始め、1985年に友人たちと最初のグループ「
Taller Canario de Canción」を結成し音楽活動を始めた。
1993年にマドリードに移住。1995年、初のソロ・アルバム『Golosinas』をリリース。以降、スペインを代表するシンガーソングライターとして数多くの自身のアルバムや、国際的なアーティストとのコラボレーションで活躍している。
Pablo Cebrián – acoustic guitar, classical guitar, electric guitar, bass, keyboards, percussion, programming
Pedro Guerra – vocal, classical guitar, timple, charango, cuatro, tres, percussion, pizzicato strings, programming
Miguel Lamas – drums
Julio Tejera – piano, keyboards
Martin Leiton – double bass
Guest :
Manuel Carrasco – vocal (3)