Balkan Paradise Orchestra 2024新譜『Nèctar』
バルセロナのジプシー・ブラスバンド、バルカン・パラダイス・オーケストラ(Balkan Paradise Orchestra, BPO)。誰もが踊りたくなるような力強いバルカン・ブラスに、女性のみの大編成というビジュアルの華やかさも相まって度々SNSでも話題となる彼女らの2024年『Nèctar』は、確固たるバルカンの伝統と実験的な現代性の同居する稀有なバンドによるジプシー・ブラスの傑作だ。
アルバムはメリチェイ・ネッデルマン(Meritxell Neddermann)をフィーチュアしたフュージョン色の強い(1)「Flowin’」で始まる。エレクトロニックも積極的に取り入れたこの幕開けは、これまでのBPOの演奏スタイルとは少しばかり性質を異にする印象を受けるが、これまでもバルカン音楽を軸に次々と新しいチャレンジを続けてきた彼女らの制限のない実験精神が表れているとも言える。
(2)「Cheesy」以降でもエレクトロニックはさりげなく効果的に用いられるが、BPOの軸であるバルカン音楽が力強く息を吹き返している。ダンサブルなビートに乗る、ジプシー・ブラスの哀愁感が醸し出す魅力は、なかなか言葉では表し難い。
BPOと同様に女性のみで編成されるカタルーニャの6人組バンド、マルハ・リモン(Maruja Limón)がフィーチュアされた(3)「A tu manera」のわちゃわちゃした賑やかさも最高だ。フラメンコ、ヒップホップ、バルカン音楽を融合した高度なミクスチャー・サウンドはかつてバルセロナに君臨したバンド、オホス・デ・ブルッホ(Ojos de Brujo)をも想起させる。
鬼才エミール・クストリッツァ率いるノー・スモーキング・オーケストラ(The No Smoking Orchestra) を彷彿させる(4)「Do」に、強烈な四つ打ちにブラスやラップが絡む現代的な社会派ジプシーブラス(5)「Estimar」。彼女たちの創造的エネルギーは尽きることなく、過去から現在を経て未来へと受け継がれていく生々しい人々の営みの温もりを感じさせる。
酔狂的な祝祭テンションが続く中、アルバムの中盤にはより感傷的な(6)「Neue」が配置されている。マリア・コファン(Maria Cofan)によるトロンボーンが主役となるが、クラリネットやトランペットら他の楽器も緻密なアレンジによってそれぞれの重要な役割を果たしており、バンドとしての成熟を感じさせる仕上がりだ。
メンバーによる声もフィーチュアされ、再び祝祭的な(7)「I’m Paciència」、粗野なようで洗練された(8)「Ella」など、アルバムは後半でもその勢いを失わない。
Balkan Paradise Orchestra 略歴
バルカン・パラダイス・オーケストラ(BPO)は2015年にバルセロナで結成された、女性のみで構成されるジプシー・ブラスバンド。結成のきっかけはバルカン音楽のファンだったメンバーのうちの3人──オリビア・カサス(Olivia Casas, tub)、アルバ・ラミレス(Alba Ramirez, f-hr)、エヴァ・ガリン(Eva Garin, cl)がファンファーレを企画しようと数人に連絡をとったところ、最終的に女性ばかりがメンバーとして集まった。
バルカン半島のルーツ・ミュージックを音を出発点としながらも、より折衷的で、世界中のさまざまなリズムや伝統をミックスした音楽性を特長とする。2017年にカタルーニャの音楽コンクールで優勝し、同年にデビューアルバム『K’ataka』(2018年)をレコーディング。2020年には壮大な冒険をイメージした2nd『Odissea』をリリースし話題となった。
その後トランペッターのアルバ・カレタ(Alba Careta)がソロ活動に専念するためグループを脱退し、現在は10人で活動を行っている。
Balkan Paradise Orchestra :
Alba Ramirez -french horn
Berta Gala – trumpet
Eli Fábregas – percussion
Eva Garin – clarinet
Laura Lacueva – clarinet
Maria Cofan – trombone
Maria Puertas – tuba
Mila Gonzalez – trumpet
Nuria Perich – drums
Olivia Casas – tuba
Guests :
Meritxell Neddermann – synthesizers
banda Maruja Limón – vocals