ウクライナ出身ピアニストのルスラン・シロタ。静かに激しく心を揺さぶる2nd『A Lifetime Away』

Ruslan Sirota - A Lifetime Away

米国のジャズ巨匠たちも多数参加。ルスラン・シロタ 2nd

ウクライナ出身で、スタンリー・クラークのバンドでの活躍で知られるピアニスト/作曲家ルスラン・シロタ(Ruslan Sirota)が2019年に発表した2枚目のリーダー作『A Lifetime Away』。国と時代に翻弄されながらも、アメリカ西海岸でジャズ・ピアニストとして成功した音楽家の半生の物語を繊細なタッチで描いた傑作だ。

ロシアの古い歌曲である(12)「Evening in the Harbor」を除き、すべてルスラン・シロタによる作曲または共作曲。何年にもわたって制作されてきた楽曲が収められており、バンド編成も楽曲によって異なっている。演奏者にはスタンリー・クラーク(Stanley Clarke, b)やジョン・パティトゥッチ(John Patitucci, b)、ピーター・アースキン(Peter Erskine, ds)、ボブ・ミンツァー(Bob Mintzer, sax)といった手練れも多数参加し、楽曲自体も抒情的なピアノジャズからラージ・アンサンブル編成の現代的な楽曲、ラテン、ボサノヴァなど多彩。

ストリングスも交えながら心情の機微をアンサンブルに乗せる作風は映画音楽のスコアを思わせるほどに映像的だ。耽美で少し陰があるが、どこか希望を感じさせる、なんとも言えない美しさが胸に迫る。
ミュージック・ヴィデオ(MV)も作られている標題曲(4)「A Lifetime Away」など、本作リリースの数年後に起こったウクライナにおける過酷な情勢を思うと涙なしでは聴けない。

(4)「A Lifetime Away」

ストリングスまでも用いた編成はジャズとしては過剰に感傷的であると感じる人もいるかもしれないが、これは激動の時代を生きてきた音楽家の自然な表現の選択のように思う。心情の中の湖面はアルバムの中で絶えず変化し、ときに凪ぎ、ときに小波となり、ときには抑えようのない嵐となる。色も温度も質感も、常に変化し続けている。
さまざまな背景をつい考えてしまうが、この作品はそれだけ心を動かさせるものには違いない。

(9)「Father to Me」はルスラン・シロタを西海岸に導いた師でもあるスタンリー・クラークに捧げられており、演奏ではスタンリー本人がフィーチュアされている。

ウクライナを代表する国際的ピアニスト、Ruslan Sirota

ルスラン・シロタは1980年にウクライナ中部のウーマニでユダヤ人の家庭に生まれた。地元で活躍したギタリストであった父親の手ほどきを受け、彼は4歳頃に初めてギターを手にし、7歳の頃にピアノに転向。1986年のチェルノブイリ原発事故や自国の経済的な問題もあり、ウクライナの旧ソ連からの独立直前の1990年に家族とイスラエルに移住したが、新天地でもピアノを学び続け、14歳の頃にジャズに関心を寄せるようになる。16歳の頃にはジャズ・フュージョン・バンド“Confusion”の天才鍵盤奏者として紅海ジャズ・フェスティヴァルなどで演奏した。

18歳のときに奨学金を受け米国のバークリー音楽大学に留学。日本人ピアニストの上原ひろみは同級生だった。
2004年頃、ルスランはベーシスト/作曲家のスタンリー・クラークのバンドに加入し、プロとしてのキャリアをスタートさせた。

2011年にはチック・コリア、ジョージ・デューク、スタンリー・クラークらも参加した初のリーダー作『Ruslan』をリリース。今作『A Lifetime Away』は2枚目のアルバムとなっている。

これまでにジャズ人脈だけでなく、ブラック・アイド・ピーズ(Black Eyed Peas)やニーヨ(Ne-Yo)、サンダーキャット(Thundercat)、フライング・ロータス(Flying Lotus)、ジェネヴィーヴ・アルタディ(Genevieve Artadi)といったヒップホップやR&B、ネオソウル界隈とも共演。様々なスタイルを貪欲に取り入れた個性派ピアニストとして国際的に活躍している。

Ruslan Sirota – piano
Stanley Clarke – bass
John Patitucci – bass
Jimmy Haslip – bass
Bob Mintzer – saxophone
Brandon Fields – saxophone
Gary Novak – drums
Peter Erskine – drums
Mike Miller – guitar
Ben Shepherd – bass
Brijesh Pandya – drums
Louie Palmer – drums
Trevor Wesley – vocals
Dino Soldo – harmonica
Dan Lutz – bass

Ruslan Sirota - A Lifetime Away
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