ダンスミュージックは原点へ。ベテランOrbitalが最新作で描く衝動的なダンスへの欲求とメッセージ

ベテランらしい遊びも織り交ぜられた自由なダンスミュージック

前回の記事で紹介したダンスミュージックの現在地、トロピカルハウス。
エモさを追求したサウンドは”共感の時代”と言われる今の時代の雰囲気を的確に音像化し、まさに音楽が共通の言語としてハブとなり全世界をつなげている証左となるような現象であるわけだが、一方でダンスミュージックの歴史は長く、そして深い。
Orbitalの最新作『Optical Delusion』。
UKテクノ四天王(Underworld,Chemical Brothers,Prodigy,Orbital)の一角である大ベテランが約5年ぶりに放つ本作は、まさに作品とも呼べるOrbitalらしいメッセージ性の強いアルバムに仕上がった。

アルバムの冒頭を飾る(1)「Ringa Ringa (The Old Pandemic Folk Song)」は、サブタイトルの通り、童謡「Ring O’Roses」がコーラスとして流れるトラック。コロナ禍の今、黒死病にルーツを持つという本曲を採用するところにOrbitalからのメッセージを感じるとともに、無邪気な童謡がタイトなトラックと合わせ、フューチャリスティックな手触りになっているのが実に面白い。

原曲となる童謡『Ringa Ringa』。

先行シングルである(7)「Dirty Rat」はパンク・デュオのスリーフォード・モッズ (Sleaford Mods)をフィーチャー。批判的姿勢の欠如とそれに伴う無思考を憂う本曲は、
イントロのベース音から、ボーカル・ジェイソン・ウィリアムソン (Jason Williamson)のスポークンワードの鋭さ、攻撃的なトラックと全てが強い怒りに満ちているようなスリリングさで、本作の中でも特異な色彩を放っている。

ラストトラックである(10)「Moon Princess」では、アメリカでCoppe名義で活動し、”The Legendary Godmother of Japanese Electronica”と呼ばれる日本人アーティスト・長谷川コッペを起用。日本語詞と不穏なトラックがSNS界隈をざわつかせたのも記憶に新しい。

日本で活動していた頃の長谷川コッペの貴重な映像

アナログ・シンセサイザーTB303を駆使した重厚なサウンド構成に定評のあるOrbitalではあるが、もはやそんな枕詞など不要の存在感と独自性で今なおフロアをロックし続けるOrbital。

現在地から原点へ。より原始的なダンスミュージックの衝動を体現した本作。こういったカウンターカルチャーやサウンドが生まれ続ける背景に、今なお一線で活躍し続けるこういったベテランのいぶし銀の活躍があることを忘れてはならない。

プロフィール

1989年に英国で結成された、ポールとフィルのハートノル兄弟からなるテクノ・ユニット。90年のデビュー・シングル「チャイム」の大ヒットで注目を集め、91年のファースト・アルバム『オービタル』でシーンに確固たる地位を築く。その後もコンスタントにアルバムを発表し、『セイント』『ザ・ビーチ』など映画のサントラへの楽曲提供も多く手がける。2004年夏のイベント“WIRE04”への出演を最後にいったん活動を終了したが、2009年に復活。その後も解散・復活を繰り返しながら、作品を発表し続けている(タワーレコード アーティストプロフィールより抜粋)

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