SSW/バンドゥーラ奏者クルート(KRUTЬ)、極上の新譜『Літепло』
ウクライナのシンガーソングライター/バンドゥーラ奏者クルート(KRUTЬ)の2022年新譜『Літепло』は、フォーク・ミュージックの香りのする繊細で抒情的なサウンドから現代的なネオソウルまで、夜空の星々のようなバンドゥーラの美しい弦の響きと、穏やかで柔らかい彼女の声が胸に沁みる素晴らしい作品だ。
全7曲、クルートの作詞作曲。アルバムはウクライナのカルパティア山脈とその美しさにインスパイアされたという(1)「Всипана зорями」で始まる。曲名は“星が散りばめられた”の意味で、静かで内省的なバンドゥーラ(ウクライナの伝統楽器)の弾き語りから徐々にサウンドは広がっていき、心のなかの無限の宇宙を解き放つような優れた創造性をみせる魅力的な楽曲となっている。
(3)「Плем’я」ではリヴィウ出身のラッパー、VovaZiLvovaと共演。曲名は“部族”の意味で、世界中すべての部族が尊重され受け入れられるべきだと歌う。今作中随一のネオソウル寄りの楽曲だ。
(4)「То таке життя」はウクライナの映画『Я працюю на цвинтарі』(私は墓地で働く/2022年9月公開)に提供された楽曲で、曲名は“それが人生”の意味。
サウンド面では彼女が弾くバンドゥーラを中心に、弦楽四重奏やホルン、さらにはシンセサイザーやエレクトリックも効果的に使用。伝統に根差した穏やかなヴォーカルと現代的なアレンジの自然な融合も洗練されており素晴らしい。
戦禍の地で生きる彼女は、自身のYouTubeチャンネルで地下シェルターで歌う動画などもアップしている。この豊かな音楽と歌声を消さないためにも、彼の地に早く安寧が訪れることを願ってやまない。
クルート(KRUTЬ)略歴
本名はマリーナ・クルート(Maryna Krut, ウクライナ語表記:Марина Круть)、1996年ウクライナ西部の都市フメリニツキー出身。労働者階級の裕福ではない家庭に生まれ、フメリニツキー子供芸術学校でバンドゥーラを学んだ。家計を助けるために15歳から演奏活動を開始。音楽活動を行うために中国で働き稼いだこともあったという。
2018年にアルバム『Arche』でデビュー、2019年にはEP『Albino』をリリース。
2020年にはヨーロヴィジョン・ソング・コンテストで「99」という楽曲でウクライナ代表を争ったが、最終選考で3位に終わった。
彼女は自身の音楽のスタイルを“バンドゥーラのサウンドを取り入れたインディー・ソウル”と表現している。