アミルトン・ヂ・オランダ、超絶トリオ作『Flying Chicken』
ブラジルを代表するバンドリン奏者アミルトン・ヂ・オランダ(Hamilton de Holanda)が、ドラマーのチアゴ・ハベーロ(Thiago Rabello)とピアニストのサロマォン・ソアレス(Salomão Soares)とのトリオで作り上げた新譜『Flying Chicken』は、ショーロの香りを残しながらもNYを中心とする現代ジャズに大きく寄せた楽曲や、3人の超絶技巧が堪能できるアルバムだ。ジャケットのイラストもなかなかに刺激的で、視聴覚の両面で世界を股にかけ活動の幅を広げ続ける彼のアグレッシヴな側面が非常によく表れている。
トリオを組むほかの二人もロックからジャズまで様々なジャンルを分け隔てなく取り込み血肉としてきたブラジルの異才なので、当然のように3人の化学反応も凄まじい。タイトル曲(1)「Flying Chicken」からもうテンション絶頂、嵐のようなフレーズの連続に体が仰け反ってしまう!
少しおどけたような曲調も楽しいオルガン・ファンク(3)「Barulhinho de Trem」、バンドリンの独奏で披露される(5)「Paz no Mundo」、スナーキー・パピーのリーダーであるマイケル・リーグ(Michael League)とアミルトンの共作曲(6)「Endlessly」など、多彩な引き出しは流石。
主に左手でシンセベースを、右手でコードやソロを弾くサロマォン・ソアレスの妙技にも耳を奪われずにはいられない。
現代ブラジルの最高峰ジャズ・トリオの素晴らしい演奏をじっくり楽しみたいアルバムだ。
Hamilton de Holanda 略歴
アミルトン・ヂ・オランダは1976年ブラジル・リオデジャネイロ生まれのバンドリン奏者/作曲家。
音楽一家に生まれ、読み書きよりも先に祖父から贈られたバンドリンを弾き始めた彼は1982年、6歳のときにプロとしてのキャリアを開始し、何百万人もの視聴者を抱える国営テレビ番組「Fantástico」にバンドリンの天才として出演した。以降、ブラジルの伝統的なショーロにとどまらず、ジャズなどさまざまなジャンルの音楽の要素を貪欲に取り入れ、とりわけその超絶的な演奏技巧でたくさんのファンを楽しませ続けている。
2000年より、伝統的には8弦4コースのバンドリンを低音側に2弦を追加し10弦5コースでの演奏を始める。これはバンドリンにより深い音を与え、伝統的なジャンルから解放し、後進の奏者たちにも10弦の新しい楽器を普及させる革命的な出来事となった。
多作家としても知られている。パンデミックの2020年には1日1曲を作っていたら1年に366曲ができた。彼には常に音楽を作りたいという欲求があり、仮に今、曲を書くことをやめたとしても残りの人生はそれらの曲を録音することで埋まってしまうだろうと語る。これまでに50枚近いアルバムに録音を残しており、InstagramなどのSNSでもいつも楽しそうに音楽を発信している。
これまでにエグベルト・ジスモンチ、エルメート・パスコアール、イヴァン・リンス、ミルトン・ナシメント、ドミンギーニョスといった数えきれないほどのブラジル国内ミュージシャンは勿論のこと、ウィントン・マルサリス、チック・コリア、ジュシュア・レッドマン、チューチョ・バルデス、ンドゥドゥーゾ・マカティニといった国外のミュージシャンとも多数の共演を行なってきている。バンドリンという楽器をブラジル音楽の範囲外にも拡張した先駆者とも言えるだろう。
Hamilton de Holanda – bandolim
Thiago Rabello – drums
Salomão Soares – keyboards, synthesizers