アンブローズ・アキンムシーレによる神懸り的トランペット独奏。新譜『Beauty is Enough』

Ambrose Akinmusire - Beauty is Enough

独奏

それがどんな楽器であっても、優れたミュージシャンの独奏という表現形態が好きだ。

2人以上でのセッションはよく“対話”という素敵な単語で例えられるが、それぞれの奏者がどれだけ自分の内なる世界で演奏しようとも、同時に音を出している以上は周囲の音を必ず聴かなければならない。2人以上のセッションという状況では、対話ではなく自分勝手で一方的な話だとしてもそれは“社会”になってしまう。そして社会というものは大抵の場合、目立たない誰かの息が苦しくなっているものなのだ。

一方、音楽の完全なる独奏はどうだろう。
楽器の独奏は独り言のようなものだ。周囲にそれを聞いている者がいない限り、独り言は誰の迷惑にもならないし誰にも影響を及ぼさない。
独り言も楽器の独奏も、社会の外側にある。社会に加わる必要のない状況というものはおそらく、大抵の人にとって心地良い。
だから、音楽の場合、ほとんどの奇跡は独奏の中で起こる(それは第三者による評価を受ける必要もない)。──ゆえに、音楽家の独奏が世の中にリリースされるということは音楽家の本質的な部分に触れようとするリスナーにとって、とても貴重なものなのだ。

芸術というものはほとんどの場合、社会の外側から生まれ、そして世には永遠に出てこない。なぜなら、その芸術を生み出した人間がそれを世に出そうとした時点で、社会という圧倒的で得体の知れない存在に怖気付いてしまうのだから。

アンブローズ・アキンムシーレの『Beauty is Enough』

今回紹介するのはなかなか珍しいジャズ・トランペットの独奏作品。

米国のトランペット奏者アンブローズ・アキンムシーレ(Ambrose Akinmusire)が自身のレーベルからリリースした新作『Beauty is Enough』は、現代ジャズ最高峰のトランペッターの“独り言”、つまり完全なソロ・トランペットのアルバムだ。

アンブローズ・アキンムシーレは驚くべき集中力でトランペットのあらゆる音域を縦横無尽に上下し、時には超絶的なテクニック、そして一方では思索に耽るようなフレージングで彼の内なる芸術表現を彼の外側に引き摺り出す。ダブルバズやグロウルといった特殊な奏法も次々と意図的に試み、聴く側にとっては彼の独り言のなかにびっくりするような瞬間を目撃することとなる。こうした音楽体験は、おそらくソロ・トランペットという形態でなければ得られないものであろう。

全16曲は聴けば聴くほど、トランペットという楽器、ひいては音楽の表現の可能性のあまりの深さに感傷的な気分にさせられる。ラストの(16)「Cora Campbell」で彼はベースラインとメロディーをトランペット1本で表現しようと試みる。

多少リバーヴが深すぎることが気になるものの、トランペットという楽器が持つ表現の魅力に取り憑かれる、素晴らしいアルバムだ。

(14)「Self -Portrait」

アンブローズ・アキンムシーレ 略歴

アンブローズ・アキンムシーレ(Ambrose Akinmusire)はナイジェリア出身の父親とミシシッピ州出身の母親の元、1982年に生まれ、カルフォルニア州オークランドで育った。高校のジャズアンサンブルで演奏していた時に、ワークショップを行うために同校を訪れていたサックス奏者スティーヴ・コールマン(Steve Coleman)の目に留まり彼のバンド、ファイヴ・エレメンツ(Five Elements)のメンバーとしてヨーロッパツアーに抜擢された。

ファイヴ・エレメンツに在籍しつつ、高校卒業後はマンハッタン音楽学校に進学。その後はカリフォルニア大学の修士課程に進学し非営利ジャズ教育機関セロニアス・モンク・インスティテュート(現ハービー・ハンコック・インスティテュート)に入り、ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)、ウェイン・ショーター(Wayne Shorter)、テレンス・ブランチャード(Terence Blanchard)といった巨匠たちに師事してきた。

2007年にはセロニアス・モンク・インターナショナル・ジャズ・コンペティションとカーマイン・カルーソー・インターナショナル・ジャズ・トランペット・ソロコンペティションの両方で優勝。翌年にデビューアルバム『Prelude: to Cora』をリリースした。2011年には名門ブルーノート・レコードから『When the Heart Emerges Glistening』をリリースし、一躍スターダムにのし上がった。

Ambrose Akinmusire – trumpet

関連記事

Ambrose Akinmusire - Beauty is Enough
Follow Música Terra