【特集】The Alchemistが認めた新星・Sideshowを形作るアンダーグラウンドHipHopの今

8月。新進気鋭のラッパー、Sideshow(サイドショー)の新作がリリースされた。
現在のHipHopシーンを席巻するトラップとは一線を隠す彼の硬派なラップミュージックの背景に存在するアンダーグラウンドHipHopの重要人物の数々。
本稿ではSideshowの新作『2MM DON’T JUST STAND THERE!』の紹介とともに、触れるべきアンダーグラウンドHipHopの今を体現する関連アーティストを紹介。文末にプレイリストも用意したので、気になった方は是非checkしてほしい。

『2MM DON’T JUST STAND THERE!』

The Weeknd(ザ・ウィークエンド)の「Out of Time」をはじめ、海外で一時期話題となった日本のシティポップ使い。Sideshowも「Wegahta’s Brother」で吉田美奈子の「扉の冬」を丸使いするなどで話題を集めたが、本作はそういったユニークさというよりは、2000年代前半の、それもギャングスタやパーティーピープルではない、まさにアングラでナードなHipHopを20年代に甦らせたと言う意味で非常に面白い作品に仕上がっている。
(1)「2UNCHI MUSIC」をはじめとした早回しや、(2)「JIH LIKE MOMENT」(13)「MR COULDN’T HURT A FLY」などに見られるソウルフルなサンプリングはKanye West(カニエ・ウェスト)を思わせるものであり、特に後者はTyler the Creator(タイラー・ザ・クリエイター)のようでもある。音楽的な目新しさはないが、25歳の若きラッパーが商業的ではないこのような作品を発表するあたりに、アンダーグラウンドHipHopの気概のようなものを感じる一枚。

MIKE(マイク)

上述のSideshowの最新作が発表されたのが、MIKE主宰のレーベル・10kだ。SideshowはLA、MIKEはNYのアーティストであるが、HipHopの東西抗争(いわゆるビーフ)は今は昔の話。インターネットで繋がれる世界においてのアンダーグラウンドHipHopは誇示ではなく、共闘の手段となった。21年作『Disco!』の「alarmed!」で競演。本曲自体は重い空気の漂う楽曲に仕上がっているが、作品全体を通して見ると、Sideshowの新作同様、ソウルフルなトラックが広がっており、そういったところからも二人の音楽性の共通点を感じることが出来る。

Wiki(ウィキ)

アメリカの音楽レビューメディア・Pitchforkが選ぶBest New Musicに『Half God』が選ばれたのをはじめ、インディー界隈で評価を上げ続ける元Ratking(ラットキング)のラッパー、wiki。特徴的なハイトーンと粘着性のあるラップが個性を生み出しながらも、抑えの効いたサンプリングトラックはまさに現在のNYのアンダーグラウンドHipHopと言える。

Navy Blue(ネイビー・ブルー)

Wikiの『Half God』を手がけるビートメイカー。自身の『Navy’s Reprise』がTIME誌の2021年ベストアルバムトップ10に選ばれるなど、ラッパーとしても超一流。Navyのビートの特徴でもあるミニマルなループを繰り返すシンプルなビートを多用するなど「らしさ」が随所に見られる本作では、Wikiとはまた違ったNavyサウンドの魅力に気づくことが出来るはずだ。

Black Noi$e(ブラック・ノイズ)

同じくビートメイカーとして活躍するBlack Noi$eは、どちらかというとクセのあるアンビエント寄りのサウンド。
OBLIVION』ではMIKEも「Tight Leash」参加するなど、Sideshow界隈とも近い人物だ。
その他、元Odd Future(オッド・フューチャー)のEarl Sweatshirt(アール・スウェットシャツ)の楽曲「2010」でトラック提供していたりと、現在のアンダーグラウンドHipHopシーンをサウンド面で支えている人物と言っていいだろう。

Earl Sweatshirt(アール・スウェットシャツ)

Odd Future(オッド・フューチャー)時代にTyler the Creatorと双璧を成す天才ラッパーで、現在のアンダーグラウンドHipHopの中心人物。18年発表の『Some Rap Song』が評価された他、The Alchemist(ジ・アルケミスト)の楽曲「Nobels」にNavy Blueと参加するなど客演も積極的に行っており、タイラーとはまた別のフィールドで輝きを放ち続けている。

The Alchemist(ジ・アルケミスト)

本稿で紹介するアンダーグラウンドHipHopの首謀者で兄貴分。ベテランプロデューサーとして、Dilated Peoples(ダイレイテッド・ピープルズ)をはじめ、近年ではKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)作品にもクレジットされるなど、数多くのHipHopアーティストをプロデュース。Eminem(エミネム)のDJと言った方がわかりやすいだろうか。
いち早くSideshowを自身の「TV dinner」で起用するなど、若手ラッパーへの目配せ・目利きは流石なもので、アールとともに様々なラッパーをフックアップし続けている。
最新作『Flying High』でもアールおよびSideshowをフィーチャー。

アンダーグラウンドにみる新たな”クルー”の形

上記のように様々なアーティストがそれぞれの個性をもとに盛り上がりを見せているNY/LAのアンダーグラウンドHipHop。面白いのが、これだけ密接に関わっていながら、いわゆる”クルー”のような活動を一切行わない点である。
今やネットやSNSで繋がれる時代。
現代のHipHopアーティストは個々の活動をそれぞれで発信しながら、その時その時で他のアーティストと繋がり、新たな作品を生み出すという、まさに自由な創作活動を謳歌していると感じる。
ますます良作を生み続けるであろう彼らのHipHopから目が離せない。

本稿で紹介した楽曲たちをプレイリストで公開中

プロフィール

1998年、エチオピア生まれワシントンD.C.出身のラッパー。8歳でアメリカに移住後、LAの有名なアパレルショップThe Hundredsで働き始めたことをきっかけに、The Alchemistとの出会いを果たす。置かれていた家庭環境から麻薬を題材にした曲が多いが、麻薬讃歌のようなものではなく、麻薬に手を染めるしかなかった自らの経験を淡々と語るストーリーテリング性は、同じ題材でもやはり今までのギャングスタRapで誇らしげに語られるいわゆる「Hard Knock Life」とは一線を画していると言える。

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