ジャズ/プログレのエイタン、クラシックのナタリー。コロナ禍でNYのピアニスト男女が急接近

Eitan Kenner & Natalie Tenenbaum - Duets / Solos

エイタン・ケネル&ナタリー・テネンバウムによるデュオアルバム

パンデミックが最高潮に達した頃、ともにニューヨーク・マンハッタンに住む二人のピアニスト、エイタン・ケネル(Eitan Kenner)ナタリー・テネンバウム(Natalie Tenenbaum)はInstagramを通じてお互いの活動を知り、2020年8月に交際を開始した。ジャズ/プログレ畑のエイタンと、クラシック畑のナタリーだったが、二人はすぐにイスラエル・テルアビブの同じ高校の出身だということに気づき、それだけでなく音楽や黒人教会への同じ情熱を持っていることを知った。

ロックダウンは続き、ナタリーはエイタンからジャズの即興演奏のリモートレッスンを受け始め、友情を育むなかで二人はそれぞれ似たような音楽的背景を持っており、本質的には似たような人生を送ってきたことに気づいたという。新旧のクラシック音楽、あらゆる時代のジャズ、そしてワールドミュージックやゴスペルなど… 二人はオンラインでのやり取りの中で互いに短い即興演奏による対話を重ねるなどほぼ毎日アイディアを交換し合い、パンデミックが落ち着いてきたころ初めてニューヨークのスタジオで直接会い、2台のピアノによる演奏を記録に残すことにした。

2023年の8月にリリースされたアルバム『Duets / Solos』は、そんな非常事態の中で起こった奇跡の邂逅の物語の産物だ。全19曲のうち、ジャズ・スタンダードやクラシックの独自解釈によるカヴァー5曲を除くすべての楽曲がエイタンとナタリーによる共作。これ以上ないほどシンプルなアルバムのタイトルどおり、楽曲によってどちらかのソロだったり、デュオ演奏で奏でられる。

アルバムの冒頭、シームレスに弾かれる(1)「Home Away From Home」〜(2)「Stride Etude」から、いきなり圧巻の演奏だ。オスカー・ピーターソンを彷彿させるストライド奏法を披露するのはナタリー・テネンバウム。…彼女は“クラシック畑”…? 音楽をジャンルで分けることは実に愚かだと思い知らされる。
この演奏は力強く躍動感に溢れ、優れた芸術性を持ったピアニストの無限の可能性を感じさせてくれる名演だ。

ナタリー・テネンバウムによる独奏(2)「Stride Etude」

(4)「Pizza」は2台のピアノによるデュオ演奏。定位が近く分かりづらいが、若干右チャンネル寄りがエイタン・ケネル、左寄りがナタリー・テネンバウムだ。テクニックに優れ速い運指が目立つナタリーと、フレーズを重視するエイタンというそれぞれの個性が見て取れる。

デュオで演奏される(4)「Pizza」

ビル・エヴァンスの人気曲(6)「Waltz For Debby」はエイタン・ケネルによる独奏で。
思慮深く和音と旋律を積み、グランドピアノを響かせる彼の演奏には往年のジャズ音楽家たちへの無限の敬意が滲むようだ。

エイタン・ケネルによる独奏(6)「Waltz For Debby」

アルバムにはナタリーの独奏によるクラシックのジャズアップも。
(10)「Reflets Dans L’eau」はドビュッシーの「水に映る影」。「Fugue in C Major, BWV 952」はJ.S.バッハ「フーガ ハ長調 BWV 952」。
ともに原曲をなぞりながら自由な解釈を加えた即興演奏で、近年、クラシックにエレクトロニックを持ち込んだ表現を試みるナタリーの革新性とも繋がる演奏になっている。

Eitan Kenner – piano
Natalie Tenenbaum – piano

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