時代を超越する魔法のような音楽。才媛レイヴェイの深化した2ndアルバム『Bewitched』

Laufey - Bewitched

伝統と洗練が不思議に混ざり合う。現代の才媛Laufey新作

中国系アイスランド人で、現在はロサンゼルスを拠点に活動するシンガーソングライター/マルチ奏者レイヴェイ(Laufey)が2ndアルバム『Bewitched』をリリースした。キュートなルックスからは想像の難しい渋い低音ヴォイス、ジャズやボサノヴァの影響を受けた洗練された自作曲には恋愛中心の少女的で幼い歌詞が乗るなどそのギャップも魅力的な新世代のアーティスト。表現力豊かな声が、ジャズコンボやオーケストラ(ロンドンのフィハーモニア管弦楽団)を起用したサウンドでより妖艶な魅力を増した。

1年前には60万人だった彼女のTikTokアカウントのフォロワーも、いつの間にか270万人まで増えている。ジャズ系のアーティストで、なかなかこんな数字は見たことがない…。ジャズやボサノヴァ、クラシックというジャンルの枠を軽々と超える音楽家という点でも彼女の存在は興味深い。

(5)「While You Were Sleeping」

今作もクラシックやジャズにインスパイアされつつ、20代の女性のポップな視点が強く反映されたレイヴェイという唯一無二の個性が反映されている。コード進行は複雑そうだが実はシンプルで古典的で、そもそもジャズは大衆音楽だったことを思い出させるし、前作以上に起伏あるヴォーカルやストリングスのダイナミクスも良い意味で懐古的。今作のあらゆる楽曲が前作で見せた彼女の非凡な才能をさらに強調するものとなっているが、音楽的に正統に進化(深化)しつつその心地よさ、親しみやすさを高いレベルで保つという業は現代では彼女以外になかなか成し得ないのではないだろうか。

レイヴェイ流ボサノヴァ (10)「From The Start」

レイヴェイらしいボサノヴァ曲(10)「From The Start」は前作の「Fragile」や「Falling Behind」を彷彿させるシンプルながら美しいガットギターの和音が印象的。コードの音を拾ってみると、「Fragile」同様にトップノート(最高音)が固定されており、要所で印象的に動く。

(10)「From The Start」に登場するギターのコード・ダイアグラム
chordpic.comで生成)

オリジナル曲がほぼ全てを占める中、エロール・ガーナー(Erroll Garner)によるスタンダード(11)「Misty」のフェミニンで神秘的なカヴァーも素晴らしい。

自虐めいたタイトルの前作『Everything I Know About Love』は手探りでの制作だったという。それに対し、最初に『Bewitched』というタイトルを決めてから楽曲制作が進行したという本作。統一されたコンセプトの中にも多様性があり、わずか1年の間に明らかな成熟、成長を見せてくれた。

甘酸っぱい(6)「Lovesick」はレイヴェイにしては珍しいエイトビートが特徴的。

レイヴェイの新作『Bewitched』は、普遍的で少しノスタルジックな香りの中にも圧倒的な新しさを感じさせる。
これは、必聴だ。

Laufey プロフィール

レイヴェイ(Laufey, 本名:Laufey Lín Jónsdóttir, 中国語名:林冰)は1999年アイスランド生まれ。
母方の祖父リン・ヤオジ(Lin Yao Ji, 林耀基, 1937 – 2009)はクラシックの著名なヴァイオリン奏者で、北京に本部を置く中国随一の音楽学校である中央音楽学院の教授を務めていた。祖母の胡适熙もピアニスト、母親もヴァイオリン奏者で、レイヴェイ自身も幼少期からクラシックの音楽教育を受けている。
アイスランド人の父親はジャズの愛好家で、彼が好んでいたエラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)やビリー・ホリデイ(Billie Holiday)といった女性ジャズ・ヴォーカリストのレコードもレイヴェイの音楽性に大きな影響を与えた。

15歳でソリストとしてアイスランド交響楽団(Iceland Symphony Orchestra)と共演。
2014シーズンのÍsland Got Talent(America’s Got Talent のアイスランド版)に参加し、ファイナリストとして終了。翌年、彼女はThe Voice Icelandにも出場し、準決勝まで進んでいる。

2020年にデビューシングル『Street by Street』をリリースし、 Icelandic Radioでチャート1位を獲得。2021年4月には最初のEP『Typical of Me』をリリース。その後2022年8月にファーストアルバム『Everything I Know About Love』を、2023年3月にはアイスランド交響楽団と共演したライヴ盤『A Night At The Symphony』をリリース。同6月にブルーノート東京で初来日公演を行ったが、チケットが発売後一瞬で売り切れるなど驚異的な人気を獲得している。

ラストの(14)「Bewitched」はロマンティックなワルツ。

双子の妹ジュニア・リン(Junia Lín)もヴァイオリン奏者で、今作でも3曲でヴァイオリンを演奏している。

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