チベットを代表するSSWユンチェン・ラモ。たった一滴の優しさから変わる人生、そして世界

Yungchen Lhamo - One Drop of Kindness

Yungchen Lhamo 2023年新作『One Drop of Kindness』

チベット出身のシンガーソングライター、ユンチェン・ラモ(Yungchen Lhamo)。清く澄んだ高音、深みのある中低音、さらにはマントラも組み合わせてチベット仏教の瞑想的な表現を歌う彼女の音楽は神々しく、心に平穏を与えてくれる。新作『One Drop of Kindness』は美しく魅惑的で、心の底から素晴らしいと思わせてくれる稀有な音楽だ。

録音はカリフォルニアのシエラネバダ山脈の森林に覆われた斜面にあるリトル・ブッダ・スタジオで行われた。7曲は全てユンチェン・ラモとジョン・アレヴィザキス(John Alevizakis)による共同制作で、ピアノ、フルート、ドラムス、パーカッション、ギター、バンジョー、ディジュリドゥ、インドのヴァイオリン、トルコのウード、アルメニアのドゥドゥクといった様々な楽器の音も聴くことができる。

(1)「Sound Healing」。ディジュリドゥの持続音や中間部のマントラも印象的だ。

シンコペーションのほとんどない歌い回しはアジア的で、その素朴さに懐かしさも感じる。一方サウンド・プロダクションは洗練されておりデジタル的。今作はこのバランスが丁度良く、チベットの伝統的な歌唱がポピュラー音楽に慣れた耳にもよく馴染む。彼女の歌の隅々に強さ、優しさ、慈悲深さが滲み出る。

アルバムのタイトルは2004年にチベット国内の困窮する人々を救うことを目的としてユンチェン・ラモが設立した「一滴の優しさ財団(One Drop of Kindness Foundation)に因んでいる。現在在住するニューヨーク州キングストンではホームレスや精神障害者の施設での仕事など、社会の中で孤立し恐怖を感じている人々に手を差し伸べている。
「大小にかかわらず、たったひとつの親切な行為が人生を変える」という彼女の哲学が音楽から滲み出る。

“歌の女神”の名を持つ Yungchen Lhamo

ユンチェン・ラモ(チベット語:དབྱངས་ཅན་ལྷ་མོ)は1963年に中国統治下のチベット・ラサで生まれた。“歌の女神”を意味するラモ(Lhamo)という名は出生時に僧侶によって名付けられている。
両親は遠く離れた場所で強制労働に従事しており、会うことはおよそ3年に一度しか許されていなかったという。チベットの伝統的な歌は祖母から教わったが、それも中国の支配下では公に歌うことは許されておらず、密かに歌わなければならなかった。

ユンチェン・ラモは幼い頃、母親に「歌が何の役に立つの?私たちに必要なのは中国軍を排除することよ」と言ったのを覚えている。すると母親は答えた。「あなたには素晴らしい声の才能があり、どこに行っても人々はあなたの歌を聞くでしょう。この土地と人々の美しさを彼らに歌って。私たちの文化について彼らに伝えて。これがあなたの武器になる。最高の武器を使えば、私たちは皆戦って勝つことができる」

1989年にヒマラヤ山脈を超えてチベット亡命政府のあるインド・ダラムサラまでの1ヶ月に及ぶ巡礼の旅に出た彼女は、音楽を通じて世界に手を差し伸べ、そしてチベットの実情を知ってもらうことを使命と考えるようになった。そして1993年にオーストラリアに移住し、その後2000年に米国ニューヨークに移住し以来そこを拠点にチベットの文化を世界に広く伝えるべく音楽活動を行なっている。

オーストラリアでの1995年のデビュー作『Tibetan Prayer』がARIAアワードの最優秀ワールド・ミュージック・アルバム賞を受賞。その後ピーター・ガブリエル(Peter Gabriel)によって創立されたリアルワールドレコード(Real World Records)と契約し、アカペラの作品としては異例の話題を呼んだ『Tibet, Tibet』(1996年)を含む何枚かのアルバムをリリース。世界80カ国以上で演奏し世界的な歌手となった。

彼女の音楽は映画『セブン・イヤーズ・イン・チベット』や、多くのチベットのドキュメンタリー映像などでも使用されている。

Yungchen Lhamo - One Drop of Kindness
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