サルヴァドール・ソブラル2023年新譜『TIMBRE』
ユーロビジョン・ソングコンテストの最高得点記録保持者として著名なポルトガル出身のSSW、サルヴァドール・ソブラル(Salvador Sobral)の4枚目のアルバム『TIMBRE』は、彼の持ち味である柔和な歌声がジャズの影響を受けた美しいサウンドに馴染む、とても良質な音楽作品だ。
どの楽曲も素晴らしく、彼の人柄が表れた真摯な音楽が表現されている。自宅で録音したというアカペラで歌われる(1)「amor」(愛)に始まり、数人のゲストも迎えながら、生きていることへの感謝、周囲の人々への感謝、そして生まれてきてくれた娘への感謝など、従来の作品とくらべてもより個人的な感情が込められており、アルバム全体があたたかなオーラに包まれている。姉が作詞作曲した1曲をのぞき、全曲がサルヴァドール・ソブラルとプロデューサーであるレオ・アルドレイ(Leo Aldrey)との共作で、歌詞はポルトガル語だけでなくスペイン語、フランス語でも歌われる。
現代最高の歌手の真骨頂のような作品だと思う。冒頭のアカペラは歌手としてのある種の覚悟のようなものだし、アルバムも全曲を通じて彼の声、そしてその声を通じて表される自身の内面が主人公となる。(2)「porque canto」は歌手としての自身の存在を問いかけるような歌。彼がなぜ歌うのか、歌手を天職としているのか、歌うことで何が起こるのかを表現しようと試みる。
(3)「a distância não é lugar」(距離なんてどこにもない)は実姉のシンガーソングライター、ルイーザ・ソブラル(Luisa Sobral)による作詞作曲で、彼女自身もヴォーカルで参加。これは彼らが信じる“正義”を表現する歌だ。
(6)「de la mano de tu voz」 は2022ラテングラミー新人賞のメキシコ出身歌手シルバナ・エストラーダ(Silvana Estrada)とのデュエット。中南米の弦楽器クアトロも演奏され、ラテンアメリカの空気が漂う。
フランス語詞の(9)「les eaux qui me gardent」ではフランスのSSWバルバラ・プラヴィ(Barbara Pravi)と共演。サルヴァドール・ソブラルが敬愛するウルグアイの巨匠ホルヘ・ドレクスレル(Jorge Drexler)とのコラボレーションが実現した(11)「al llegar」は、美しいスペイン語で歌われている。
Salvador Sobral プロフィール
サルヴァドール・ソブラルは1989年生まれののポルトガル・リスボン出身の歌手。2009年、イギリス発のオーディション番組『ポップアイドル』のポルトガル版にあたるテレビ番組『Ídolos』の第3シーズンに出演しファイナリストとなり新世代のシンガーとして注目された。
2016年にデビューアルバム『Excuse Me』をリリース。ユーロビジョン・ソングコンテスト2017のポルトガル代表を決める国内選考にて姉ルイーザ・ソブラルが作詞作曲した楽曲「Amar pelos dois」を歌い、優勝。 ポルトガル代表として同コンテストに出場し、史上最高得点となる758点で優勝を果たした。ユーロビジョン・ソングコンテストは英語のアップテンポの曲が有利とされていたが、ポルトガル語のスローバラードであるこの感動的な楽曲は“従来の常識を覆す”と称えられた。授賞式では「内容のほとんどない、使い捨ての無意味な音楽が蔓延するこの世界で、これは意味のある音楽を作っているすべての人の勝利だ。音楽は花火大会ではない。音楽は感情なんだ。音楽を取り戻そう。それが本当に大切なことだ」とスピーチし多くの共感を呼んだ。
その後は急激に注目を集めたことによるストレスや、元々抱えていた健康問題で一時活動を休止するも、2017年末に心臓移植手術に成功。2019年にセカンドアルバム『Paris, Lisboa』をリリースするなど音楽活動に復帰した。
彼の音楽性はジャズを基調に、ポップスなどのよりキャッチーな要素を取り入れたもので、チェット・ベイカー(Chet Baker)からの影響も公言している。