現代ジャズを代表するギター奏者ロテム・シヴァン新譜
やはり、彼は現代最高のギタリストのひとりだろう。
イスラエル出身、ニューヨークで活動するロテム・シヴァン(Rotem Sivan)。古典的なジャズからヒップホップ、ネオソウル、インド音楽、ロックなど様々な要素から影響を受けた実験的な音作りなど好奇心の旺盛さが窺え、どんなことをやってもセンスの塊のように素晴らしい音楽を生み出す天才。
2024年1月、新作『Dream Louder』をリリース。一聴して彼のギターの音とわかるほどの強烈な個性を感じさせつつ、やはりまた新しい側面を見せてくる素晴らしい作品に仕上がっていた。
アルバムにはベースのハミッシュ・スミス(Hamish Smith)やドラマーのミゲル・ラッセル(Miguel Russell)、ヴォーカリストのサミ・スティーヴンス(Sami Stevens, ロテムの歌の先生でもある)、さらには口笛でルーク・クラフカ(Luke Krafka, 本職はチェロ奏者だが口笛が上手いということで誘われたようだ)が参加し、音楽的に非常に高度ながら、どこか人懐っこさのあるセッションを繰り広げる。
メロウに演奏される(1)「The Tree (For Hilde)」は彼の妻の母親であるヒルダに捧げられたもの。(2)「Anneleen」は義妹、(4)「Luc」は義父の名、そして(6)「Lore Luv」は最愛の妻ロアというように、アルバムの多くの自作曲は彼の周りの家族や友人への感謝と、そうした人々からのたくさんの相互作用が表現されたものとなっている。アルバムタイトルの“夢を叫ぶもの”は、人生において夢や目標、好きなことを深く探究する姿勢こそが大切なのだという彼の哲学を反映している。
(3)「Dragon」はさすがに家族や友人の名ではないだろうが、2歳からドラムを叩き始め、3歳の頃に初めて有料のライヴをしたという天才ドラマー、ミゲル・ラッセルの燃えるような人力ドラムンベースが強烈な曲だ。
ビートルズの名曲(5)「Blackbird」は彼がアレンジし数年前から弾いているもので、今作でアルバム初収録となった。原曲を大きく変えず、丁寧にハーモニーとメロディーを紡ぐカヴァーだ。
(8)「West Virginia Mine Disaster」は米国史上最悪の鉱山災害で夫を亡くした女性の視点から書かれたジーン・リッチー(Jean Ritchie, 1922 – 2015)のフォークソングのカヴァーで、ここではダブルベースと口笛、歌詞のないヴォーカルがユニゾンしテーマを奏で、深い悲しみの感情に包まれる今作中もっとも繊細な楽曲。ハミッシュ・スミスはニュージーランド出身の若手だが、この曲に限らず、彼の圧巻のベースソロは今作の大きな聴きどころとなっている。
(9)「Mack the Knife」は古いジャズスタンダードで、ここでもオーセンティックなスウィングのリズムながら随所に現代的なフィーリングが混ざる。ロテム・シヴァンのギターの音色は、本当に素敵だ。
Rotem Sivan プロフィール
ロテム・シヴァンはイスラエル生まれのギタリスト/作曲家。テルアビブの音楽学校を卒業しクラシック作曲の学位を取得後、2008年に渡米しニューヨークでジャズを学び、2009年にはスイスのモントルー・ジャズ祭のインターナショナル・コンテストに入賞。2013年に『Enchanted Sun』でアルバムデビューし、ハガイ・コーエン・ミロ(Haggai Cohen-Milo)らと共演した2014年のセカンドアルバム『For Emotional Use Only』はダウンビート誌で星4.5を獲得するなど、高い評価を得てきた。
その後何枚かは聴きやすい良質なコンテンポラリージャズ作品を発表していたが、2018年作『My Favorite Monster』で大きく変貌。R&B、ヒップホップ、北インド音楽など他ジャンルからの影響も伺えるサウンドで飛躍を見せた。
さらに2021年作『Far From Shore』では彼のアルバムでは初めて“歌”にフォーカスをあて、NYの気鋭奏者たちと共にR&Bやネオソウル色を強めた作品を創り上げた。
多くのフォロワーを抱えるInstagramやYouTubeでも積極的に情報を発信。普遍性と個性を絶妙なバランスで併せ持ち、現代のジャズギターを一歩リードする存在となっている。
Rotem Sivan – guitars
Hamish Smith – bass
Miguel Russell – drums
Sami Stevens – vocals
Luke Krafka – whistle