ファビアーノ・ド・ナシメント&サム・ゲンデル、音楽の普遍の美しさを体現する初デュオ作

Sam Gendel & Fabiano do Nascimento - The Room

ファビアーノ・ド・ナシメント&サム・ゲンデル『The Room』

7弦ギター奏者のファビアーノ・ド・ナシメント(Fabiano do Nascimento)と、サックス奏者のサム・ゲンデル(Sam Gendel)の初デュオ作『The Room』は、南米のシャーマニックな土着音楽が主なレパートリー。ギターとソプラノサックスのみという編成ながら、多彩な奏法を用い、実に色彩豊かで美しい音楽を作り上げている傑作だ。

作曲者の名前がしっかりとクレジットされている曲は(2)「Capricho」(アミルトン・ヂ・オランダ作)と(5)「Cores」(Liliana Chachian, Ugo Delmirani, Oliver Graham Jos Soares De Albergaria Savill 作)のみで、他はすべてブラジルやアルゼンチンの作者不詳の伝統曲のようだ。これらの素材を、7本のナイロン弦でブラジルの原風景的サウンドを奏でるファビアーノと、独特の美的感覚でジャズからアンビエントまでをシームレスに横断するサム・ゲンデルが即興を中心に見事に料理。この2人以外には成し得ないであろう驚くべき化学反応で調和したサウンドは、おそらく多くの人の心の波長と共鳴するのではないだろうか。

(1)「Foi Boto」

人によってサム・ゲンデルというミュージシャンに対して抱いている印象は様々だろう。
カリフォルニア州バイセイリア出身、ロサンゼルスを拠点とするサックス奏者/マルチ奏者である彼は11歳でサックスを始め、南カリフォルニア大学でルイス・コールに出会い、2010年頃よりルイス・コールのバンド「Knower」などでサポート・ミュージシャンとして活動を始めた。非常に多作な彼自身のアルバムはストレートなジャズはほぼなく、音響を重視した実験的なサウンドが多いため前衛的なミュージシャンという印象も強い。
そんな彼の今作での演奏は、びっくりするほど完璧にアコースティックで、高度な即興演奏の中にも人間的で繊細な揺らぎがあり、木管楽器特有の温かさの中には感情が込められている。私はこの作品を聴いてサム・ゲンデルのイメージが大きく(もちろん、良い方向に)変わった。

(4)「Kewere」、約10年前にファビアーノ・ド・ナシメントとサム・ゲンデルが共演した際の映像(本作収録版とは別音源)

もう一方、ブラジル・リオデジャネイロ出身、ロサンゼルス拠点のギタリストであるファビアーノ・ド・ナシメントはもう“現代のバーデン・パウエル”と呼んで申し分ないだろう。彼のギターからはアフロ・ブラジルや南米先住民の文化が聴こえてくる。力強いが乱暴ではなく、野性的だが無鉄砲ではない独特の素晴らしいギター演奏。

いつの時代も、真に素晴らしい音楽の本質は決して変わらない。今作のように音に溺れたい、と思わせる作品は、そうそうあるものではない。

Fabiano do Nascimento – 7-string guitar
Sam Gendel – soprano saxophone

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