バーデン・パウエルの“アフロ・ブラジレイロ性”を取り戻す試み。Glaw Nader『Tempo de Amor』

Glaw Nader - Tempao de Amor

ミナスの歌手グラウ・ナデル、バーデン・パウエルを歌う

ブラジル・ミナスジェライス州ベロオリゾンチの歌手グラウ・ナデル(Glaw Nader)がデビューアルバム『Tempo de Amor』をリリースした。アフロ・ブレジレイロ(アフリカ系ブラジル人)の音楽や文化とジャズの相互作用を研究する彼女が、このアルバムで選んだテーマは黒人音楽家としてのバーデン・パウエルの再解釈だ。

ブラジル国内外でもっとも知られたギタリスト/作曲家であろうバーデン・パウエル(Baden Powell, 1937 – 2000)。詩人ヴィニシウス・ヂ・モライス(Vinícius De Moraes)との1966年の作品『Os Afro Sambas』は彼の偉大な軌跡の出発点だった。このアルバムはブラジルのポピュラー音楽を黒くすることができる分水嶺として当時の批評家から絶賛され、肌を超えて表現されたその音楽のアフロ・ブラジレイロ性は白人たちの声によってこのアルバムに“永久不滅”のラベルを貼った。

だが、グラウ・ナデルによると、白人が支配する中・上流階級によって貼られたそれはバーデン・パウエルの正しい評価ではないのだ。

彼女が今作でバーデン・パウエルをテーマに選んだ理由は、“白人の声によって聖別されてきた彼の作品に再び黒人の声を与えたいという願望から”なのだという。バーデン・パウエルの作品の根底に流れるのはアフリカから持ち込まれ現地で発展した土着宗教だが、それらは評価の中で軽視されているというのが彼女の意見なのだ。それが意図的であるか否かに拘らず、構造的な人種差別や植民地化主義は未だに多民族国家・ブラジルに影を落としている。白人は黒人文化を愛し利用しているが、黒人を愛しているわけではない── グラウ・ナデルはそうした視点からバーデン・パウエルという歴史的な音楽家を捉え直した。

(10)「Samba em Prelúdio」

今作はバーデン・パウエルの作品を、作者の物語や彼女自身の肌、そして声を重視する視点で再解釈している。グラウ・ナデウ自身はカンドンブレを信仰する黒人歌手だ。彼女の声はバーデン・パウエルが残した素晴らしい楽曲にアフロ・ブラジレイロのリアルな魂を吹き込む。

グラウ・ナデウは言う:
「サウンドの背後にある物語を理解する意識的な聴衆を形成できる可能性を信じています。それは、ナレーションのテキストや行間で語られるストーリーに注意を払わずに、ただ歌を聴くことに限定されません」

それにしても、今作で提示されるリズム的なアプローチの多様性には驚かされる。
メロウなサンバのリズムで奏でられる(1)「Berimbau」。AORな(2)「Deixa」。
アフロ要素強めのボサノヴァで慈愛に満ちたアルバムのタイトル曲(13)「Tempo de Amor」。

(13)「Tempo de Amor」

アルバムは名曲が連続する後半にかけ、次第に盛り上がりを見せる。パーカッションとブラスを中心に据えたアレンジの(11)「Canto de Xangô」、グラウ・ナデルのヴォーカルのブルーノートも印象的な(14)「Canto de Ossanha」など。

収録曲はすべてカヴァーだが、バーデン・パウエルの軌跡やブラジル音楽史に与えた影響などを強く感じられる優れた作品だ。

(11)「Canto de Xangô」

Glaw Nader - Tempao de Amor
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