ビレリ・ラグレーン、原点回帰のジャズ・アルバム
現生ジャズ・レジェンドのひとり、ビレリ・ラグレーン(Biréli Lagrène)。
ジャンゴ・ラインハルト(Django Reinhardt, 1910 – 1953)の正統な後継者として幼少期より類稀な才能を示し、マヌーシュ・ジャズだけでなくフュージョンやジャズロックの分野でも活躍した彼の2026年の最新作『Elegant People』は、ジャズ・ギターの“原点回帰”であり、彼自身の根幹を形作る音楽表現を凝縮した作品だ。
あるメディアはこの作品を“かつて彼のトレードマークの一つだったジャズロックの美学からは大きく離れ、ややマンネリ化していたレパートリーに新たな息吹を吹き込み、ウェス・モンゴメリー、ジョー・パス、パット・マルティーノといった偉大な先人たちのジャズの根幹に近づいている”と評している。アルバムの一部を聴けば確かにその通りかもしれない。心地よい音色とスウィングのリズムと、人間業とは思えないギターという楽器のポテンシャルを最大化する演奏は、ジャズという音楽の美学の極致をこれ以上ないほどストレートに表現している。
(1)「Elegant People」はウェイン・ショーター(Wayne Shorter, 1933 – 2023)が作曲し、ウェザー・リポート(Weather Report)で演奏された曲。この作品においてはスウィング・ジャズのエネルギーに満ち、“古き良き時代”への回想を促すような凄まじい熱量で彩られた完璧なたオープニングとなっている。
(2)「Flair」はジョン・コルトレーン(John William Coltrane, 1926 – 1967)の「Giant Steps」にインスパイアされた曲で、原曲を引用しつつファンキーな演奏が繰り広げられる。
ヴァイオリン・ソロ(公式クレジットに記載はないが、おそらくビレリ・ラグレーンが弾いていると思われる)に導かれる(3)「Kings Cross」や、パーカッションでステファン・エドゥアール(Stéphane Edouard)がゲスト参加したイヴァン・リンス(Ivan Lins)作の(6)「Anjo de mim」カヴァーも印象的だ。
ジャズギターの伝統的なスタイルと、かつて“神童”と呼ばれたビレリ・ラグレーン自身のアイデンティティが絶妙に交錯した、圧巻の作品。
Biréli Lagrène 略歴
ビレリ・ラグレーンは1966年にフランス・アルザス地方スフレンアイムのマヌーシュ(ロマ)の家族のもとに生まれたギタリスト/ベーシスト/作曲家。父親と祖父もギタリストで、伝統的なジプシー・ギターの環境で育った彼は、4歳頃からギターを始め、7歳にはジャンゴ・ラインハルトを思わせるスタイルで即興演奏をこなす神童ぶりを発揮。1980年、わずか13歳で初のライブアルバム『Routes to Django』を録音し、ジャンゴの後継者として世界的な注目を集めた。
11980年代初頭にはステファン・グラッペリ、ベニー・グッドマン、アル・ディ・メオラ、パコ・デ・ルシア、ジョン・マクラフリンらと共演を重ね、ジャズの枠を超えた活動を展開。1984年にはニューヨークでラリー・コリエルと出会い、彼の紹介によってジャコ・パストリアスと出会ったことによりフュージョンに傾倒し、一時ベース奏者としても活躍したが、再びギターに専念して独自の適応力ある演奏スタイルを確立した。
1990年代に入ると伝統回帰の動きも見せ、『Acoustic Moments』や『Standards』でクラシックなジャズを再解釈し、1993年にはDjango d’Or賞を受賞。2000年にはパワートリオ『Front Page』でヴィクトワール・ド・ラ・ミュジック賞を獲得し、2001年の『Gipsy Project』シリーズではジプシー・ジャズの革新を追求した。
以後もスタンリー・クラーク、ジャン=リュック・ポンティ、シルヴァン・リュックらとの共演を続け、2012年に芸術文学勲章シュヴァリエを受勲。2022年のソロ作『Solo Suites』を経て、2026年には新クァルテットによる『Elegant People』をリリースし、40年を超えるキャリアの中で不要な技巧を捨て、本質的な自発的表現を追求。スウィング、フュージョン、ポスト・バップを自在に横断する彼の音楽は、ジャズ・ギターの巨匠として今なお進化を続けている。
Biréli Lagrène – guitar
Jean-Yves Jungpiano – piano, Rhodes, organ
William Brunard – double bass
Raphaël Pannier – drums
Guest :
Stephane Edouard – percussion (6)