アマロ・フレイタス、自然との対話で紡ぐ幽玄な新作『Y’Y』

Amaro Freitas - Y'Y

アマゾンへの畏敬や憧憬が生んだアマロ・フレイタス新譜『Y’Y』

ブラジルのピアニスト/作曲家アマロ・フレイタス(Amaro Freitas)の新作『Y’Y』は、彼らの文化の根源のひとつであるブラジル北部のアマゾンや先住民族への深い敬意に満ちた表現が印象的だ。アルバムの前半はピアノ(そして声やパーカッション)を通して自己の内面と自然(nature)を繋ぎ対話する内省的な試みであり、後半ではブラジル国外の素晴らしいゲストも迎え、アフロ・ブレジレイロとしての表現を世界に広く解放し共有する。

今作は2020年に過ごしたアマゾナス州都マナウスでの経験にインスパイアされているといい、彼のこれまでのピアノトリオでの音楽表現と比べても全面的に抽象度を上げたスピリチュアルなものになっている。世界観はエグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti)とナナ・ヴァスコンセロス(Naná Vasconcelos)による諸作などとも似ており、深く瞑想的な感覚は現代的・未来的というよりは原点回帰的だ。ブラジルの過去の音楽遺産への愛情は(5)「Sonho Ancestral」の一部にルイス・ゴンザーガ(Luiz Gonzaga)による北東部音楽を代表する名曲「Asa Branca」が引用されていることからも窺える。

(4)「Dança dos Martelos」

ゲストとして現行UKジャズの第一人者であるサックス奏者シャバカ・ハッチングス(Shabaka Hutchings, 今作では2曲でフルートを演奏している)やアメリカのギター奏者ジェフ・パーカー(Jeff Parker)、ハープ奏者ブランディー・ヤンガー(Brandee Younger)らが参加。ラストの(9)「Encantados」はシャバカ・ハッチングスとドラマーのハミッド・ドレイク(Hamid Drake)、そしてアマロとはトリオを組んでいたキューバ出身ベース奏者アニエル・ソメイラン(Aniel Someillan)が参加し、これまでのアマロ・フレイタスらしいジャズを繰り広げる。

Amaro Freitas 略歴

アマロ・フレイタスはブラジル北東部ペルナンブコ州レシフェの郊外に1991年に生まれた。教会のバンドのリーダーだった父の指導の下、12歳の頃から教会でピアノを弾き始め驚くべきスピードでその才能を開花させ、ペルナンブコ音楽院で優勝を果たすも、家庭の経済的な理由で学校を中退しなければならなくなった。それでも結婚式でのバンド演奏やコールセンターのバイトなどでなんとか授業料を稼いでいるうちに、15歳の頃にチック・コリアのコンサートのDVDを観て衝撃を受け、ピアニストの道を歩む決心をしたという。

アマロは自宅に実際のピアノを持っていなかったが、自室で空想上の鍵盤で練習したり、レストランと契約し営業時間前にピアノの練習をさせてもらったりと努力を積み重ね、22歳の頃には地元でその名を知られるようになり、ジャズバー「ミンガス」の専属ピアニストにもなった。その頃にベーシストのジーン・エルトン(Jean Elton)とドラマーのウーゴ・メデイロス(Hugo Medeiros)と出会いトリオを結成。2016年のデビュー作『Sangue Negro』、2018年の『Rasif』、2021年の『Sankofa』はいずれも絶賛され、各地のローカルな音楽を取り入れた世界的な新しいジャズの潮流を汲んだブラジル発の新世代ピアニストとして国際的な注目を集めている。

彼はこんなコメントを残している。
「私はピアノが特定の階級のための楽器であるという固定観念を打ち破りたい。ピアノは確かに難しく、誰もが演奏できるものではないが、この楽器は全てを表現できるんだ」

Amaro Freitas – piano, voices, all other instruments
Hamid Drake – drums (9)
Shabaka Hutchings – flute (6, 9)
Jeff Parker – guitar (7)
Aniel Someillan – bass (9)
Brandee Younger – harp (8)

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