南米音楽の真髄に触れる。ヤマンドゥ・コスタ&エロヂー・ボウニー夫妻が贈る究極のギターデュオ作

Yamandu Costa & Elodie Bouny - Helping Hands

南米ギター音楽の真髄に触れる、クラシカルでジャジーなデュオ作

ブラジルの7弦ギタリスト、ヤマンドゥ・コスタ(Yamandu Costa)とベネズエラ生まれのクラシック・ギタリスト、エロヂー・ボウニー(Elodie Bouny)のデュオ作『Helping Hands』がリリースされた。この夫婦は過去たびたび一緒に演奏する動画をYouTubeなどにアップしているが、こうして音源としてまとまったものは初めてだ。

収録曲は主に南米の作曲家の作品たちで、エロヂーがほぼ譜面通りの演奏をし、ヤマンドゥが即興を重ねる構成となっている。2本のナイロン弦ギターは力強く響き、その超絶技巧と美しさは圧巻だ。

(1)「Tonada por Despedida」はチリの作曲家、フアン・アントニオ・サンチェス(Juan Antonio Sánchez, 1965 – )の曲。ヤマンドゥ・コスタはここでは第7弦をショーロで一般的なCではなくBに調弦し低音を拡張、メロディーもエロヂーの1オクターブ上を弾くなどデュオならではの厚みのある表現を魅せる。

(1)「Tonada por Despedida」

アルゼンチンの作曲家マヌエル・デ・ファリャ(Manuel de Falla, 1876 – 1946)による(2)「Danza Española n.1」は2人の技巧が堪能できる演奏。安定したエロヂーの演奏と、まさに自由自在という表現が相応しいヤマンドゥによる即興はこの世のギター音楽の最高峰であることは間違いないだろう。
ここではヤマンドゥの第7弦はAに調弦されており、その低音の迫力も素晴らしい。こうして曲の調性に合わせて表現力を最大化できるのも7弦の魅力だ。

(2)「Danza Española n.1」

ギター音楽の巨匠であるスペインのホアキン・ロドリーゴ(Joaquín Rodrigo, 1901 – 1999)は(3)「Seguidillas del Diablo」、(5)「Danza de La Amapola」の2曲を収録。タイトル曲である(4)「Helping Hands」はブラジルを代表するギタリスト、セルジオ・アサド(Sérgio Assad, 1952 – )の曲だ。

パラグアイを代表する作曲家バリオス・マンゴレ(Agustín Barrios Mangoré, 1885 – 1944)の名曲(9)「La Catedral」(大聖堂)も。この曲は非常に多くのクラシックのギタリストが演奏しているので、それらと聴き比べるのも楽しいだろう。

(9)「La Catedral」

(7)「Remebrance of Rio」と(8)「Adentro」はヤマンドゥ・コスタのオリジナル。

ヤマンドゥ・コスタ来歴とガウーショ音楽からの影響

ヤマンドゥ・コスタは1980年1月24日、ブラジル最南部のリオグランデドスル州の都市パッソフンドで生まれた7弦ギター奏者/作曲家。名前はトゥピ・グアラニ語に由来しており、「水の主」を意味するという。歌手である母クラリー・マルコン・コスタ(Clary Marcon Costa)と、マルチ奏者である父はアウガシル・コスタ(Algacir Costa)はともにオス・フロンテイリソス(Os Fronteiriços)という親族で主に構成されたバンドの共同設立者で、ヤマンドゥは幼い頃からステージの両親を見ていた。オス・フロンテイリソスの活動は1990年に解散するまで23年間続き、YouTubeにはガウーショ1の伝統的なスタイルの音楽を演奏する彼らの映像も少しアップされており、ヤマンドゥのルーツを窺い知ることができる。ヤマンドゥは7歳のときから父親に最初の手解きを受け7弦ギターを始めた。

ヤマンドゥのギターにもっとも影響を与えたのは、アルゼンチン出身のギタリスト、ルシオ・ヤネル(Lúcio Yanel)だ。1982年、フォークランド紛争が集結するとルシオはブラジルへの移住を決意。アルゼンチンの友人から「パッソフンドにいるガウチョのミュージシャンに楽譜を持っていって」と頼まれていた彼はアウガシル・コスタの家を訪ね、一晩だけ滞在するつもりが結局約4ヶ月間もその家に滞在することになった。ルシオは以降もコスタ一家と交流を持ち、アウガシルの息子ヤマンドゥのギターに多大な影響を与えた。ルシオ・ヤネル自身はヤマンドゥに対し指導をしたつもりはなかったようだが、ヤマンドゥにとってルシオはインスピレーションの源であり、今も彼を師匠と呼んでいる。

それまでは両親やルシオからの南米音楽の影響が主だったヤマンドゥだが、15歳の頃にブラジルの作曲家ハダメス・ニャタリ(Radamés Gnatalli)の音楽に魅了され、そこからバーデン・パウエル(Baden Powell)、トム・ジョビン(Tom Jobim)、ハファエル・ハベッロ(Raphael Rabello)らブラジル人音楽家の作品の研究を始めた。17歳の時にサンパウロで演奏し実力を認められ、19歳で家族の元を離れサンパウロに移住し、2000年以降多くの作品をリリース。2019年の半ばに発表したアルバム『Vento Sul』はサンパウロ芸術評論家協会から上半期ベスト25作品に選ばれるなど高い評価を受けた。また、2021年のトッキーニョ(Toquinho)とのデュオアルバム『Bachianinha』でラテングラミー賞の作曲家部門を獲得するなど、ブラジル屈指の7弦ギタリストとして名を馳せている。

妻のエロヂー・ボウニーは1982年にベネズエラ・カラカスで生まれ、フランス・パリで学んだギタリスト。ラテンアメリカの古典音楽のレパートリーを収録した彼女のデビュー・アルバム『Terra Adentro』(2011年)はヤマンドゥ・コスタによってプロデュースされた。

ドメニコ・スカルラッティ(Domenico Scarlatti, 1685 – 1757)作曲の(6)「Sonata K386」

Yamandu Costa – 7-string guitar
Elodie Bouny – guitar

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  1. ガウーショ(Gaúcho)…アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジル南部のパンパ(草原地帯)やアンデス山脈東部に17世紀から19世紀にかけて居住し、主として牧畜に従事していたスペイン人と先住民その他との混血住民のこと。スペイン語ではガウチョ(Gaucho)。 ↩︎
Yamandu Costa & Elodie Bouny - Helping Hands
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