世界が注目する新鋭女性ジャズドラマー、ロニ・カスピ。天才的ポップ感覚を発揮した初SSW作

Roni Kaspi - Poni

現行アヴィシャイ・コーエン・トリオのドラマー、ロニ・カスピ初のソロ作

2020年にドラマーとしてアヴィシャイ・コーエン・トリオ(Avishai Cohen Trio)に加入し、一躍現代を代表する女性ジャズドラマーとして知られることになったイスラエル出身のロニ・カスピ(Roni Kaspi)が、シンガーソングライターとしての才覚を発揮した初ソロ作『Poni』をリリースした。

本作は彼女がアヴィシャイ・コーエンのトリオで魅せる柔軟かつパワフルで超絶的なドラミングを期待するものではない。ジャンルとしてはさしずめエレクトロ・ジャズポップだろうか。数年前から自身のプロジェクトとして心血を注ぐ“ロニポニ”(Roni Poni)の最初の集大成で、若い女性らしいポップ感覚と、奔放な自由さに溢れた魅力的な音楽に仕上がっている。

EPにはこれまでにシングルとしてリリースされていた(1)「Why Does」や(2)「Mistakes」を含む、彼女が作詞作曲/プロデュースした6曲を収録。もちろん彼女自身でドラムスを叩き、さらには歌っているが、サウンドは所謂伝統的なジャズとは一線を画し、ブラジル・ミナスや米国LAの若いジャズ系アーティストたちのサウンドとも呼応する現代的なインディー・ロックやヒップホップ寄りの音作りが前面に出ている。エレクトロニックも多用し、やはりジャズで培ってきたリズムやハーモニーの洗練された繊細さは瑞々しく素晴らしい。

(1)「Why Does」

現代最高峰のジャズトリオのドラマーとしてセンセーショナルに登場したロニ・カスピだが、この作品は従来のジャズファンだけでなく、ジャンルに関係なく新しくて心地良いサウンドを好むオープンマインドなリスナーにも強く訴求できるものだ。

ジャンルの壁を一切感じさせない充実したイスラエルの音楽シーンに登場した、才能溢れる新世代。
今作は優れたソングライティングと歌、斬新かつキャッチーなサウンドに耳が惹かれがちだが、(6)「Stay」などを聴けばロニ・カスピという23歳の女性が現代屈指の天才ドラマーだったということを直ぐに思い出すだろう。

(2)「Mistakes」

Roni Kaspi 略歴

ロニ・カスピ(ヘブライ語:רוני כספי)は2000年にイスラエルのテルアビブで生まれた。音楽愛好家の両親のもと幼い頃からさまざまな音楽に触れて育ち、7歳の頃に学校の音楽室でドラムキットを見つけてからドラムスに夢中になった。その後、ピアノやベースも学び、イスラエルの名門テルマ・イェリン国立芸術高等学校のジャズ科で学びを深め経験を積んだ。その後全額奨学金を得て米国ボストンのバークリー音楽大学に通ったが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの間、すべての授業がオンラインになったためイスラエルに帰国。ロックダウンに演奏をSNSに投稿し始めたが、それが世界的ベーシストであるアヴィシャイ・コーエン(Avishai Cohen)の目に留まり、バークリー在学中から彼のトリオに参加することになった。

2023年には世界中のドラマーが選考対象となるDrumeo Awardsで年間ベスト・ジャズドラマー賞を受賞。これは同賞にエントリーされていた他の4人のスーパープレイヤーたち──ブライアン・ブレイド(Brian Blade)、ケンドリック・スコット(Kendrick Scott)、アントニオ・サンチェス(Antonio Sánchez)、ユセフ・デイズ(Yussef Dayes)──を押し退けての快挙だった(ちなみに前年の2022年のこの分野の受賞者は女性ジャズ音楽家の最筆頭であるドラマー/バークリー音大教授テリ・リン・キャリントン。ロニのバークリー1年目は彼女のクラスで学んだ)。

(4)「S Song」

2024年の4月にアヴィシャイ・コーエンのトリオのメンバーとして来日しブルーノート東京などで公演を行ったが、5月以降は今作を制作した自身のバンド(Oxy – keys, Noe Berne, b)で欧州やアメリカをツアーする。

Roni Kaspi – vocals, drums, production and editing
Oxy – keyboards, synth
Noe Berne – bass
Roy Ben Bashat – guitar, bass (3)

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