パレスチナ出身クラリネット奏者モハメド・ナジェム、欧州とアラブを音楽で繋ぐ魅惑のジャズ

Mohamed Najem - Jaffa Blossom

パレスチナ出身モハメド・ナジェム、ヤッファを想う新作

パレスチナのクラリネット/ネイ奏者/作曲家モハメド・ナジェム(Mohamed Najem)の新作『Jaffa Blossom』がリリースされた。一般的なジャズ・ピアノトリオ編成に彼のアラブ音楽からの強い影響が窺えるクラリネットが溶け込み、地中海から中東の街並みや歴史の物語を感じさせる魅力的な音楽が展開される作品だ。

モハメド・ナジェムはエルサレムで生まれ、ベツレヘム1で育ち、2005年にパレスチナの音楽コンクールのアラブ音楽部門で優勝を獲得している。2015年に最初のアルバム『Floor No. 4』をリリースしており、今作はそこからの再演曲が多い。
ラテンと中東が混ざったようなオリエンタル・ジャズ(1)「Bus」から(4)「Flower」までの4曲、さらに(7)「Floor No. 4」、(11)「From Bethlehem to Angers」はデビューアルバムにも収録されていた曲の再構成・再録音となっている。

アルバムタイトルのヤッファ2(Jaffa)とはテルアビブ南部にある地中海に面した歴史ある港町で、彼の祖父が生まれ育った多宗教の都市だ。モハメド自身はこの街に行ったことはないものの、その街の物語をよく祖父から聞かされていた。そのため、彼にとってヤッファは“毎日、心の中で咲くもの”であり、“場所ではなく、過去、現在、未来に存在する空間”なのだという。

(5)「Jaffa Blossom」

全曲がモハメド・ナジェムの作曲。
コアバンドにはピアノのクレマン・プリオール(Clement Prioul)、ダブルベースのアルテュール・エン(Arthur Henn)、ドラムスのバティスト・カステ(Baptiste Castets)とフランス勢を揃える。さらにゲストでパレスチナ出身のウード/打楽器奏者ユーセフ・ザイード(Youssef Zayed)と、クロマチック・ハーモニカのトマス・ローレン(Thomas Laurent)が数曲で参加している。

Mohamed Najem 略歴

モハメド・ナジェム(アラビア語: محمد نجم)は1984年にエルサレムで生まれ、ベツレヘムに隣接するキリスト教徒が多くを占める村ベイト・サフールで育った。第一次インティファーダ3のさなか、イスラエルの戒厳令により幼少期のほとんどを自宅に閉じ込められていたモハメドは、一日の多くを父親の音楽テープを聴いて過ごした。彼の音楽への執着に気づいたモハメドの父親は、後に彼をパレスチナのエドワード・サイード国立音楽院(ESNCM)に連れて行き、クラリネットとネイ4を勉強させた。その後モハメドはフランスのアンジェにある地方音楽院に進み、2011 年に DEM(音楽研究のディプロマ)を取得して卒業した。このフランスでの音楽経験が、現在の折衷的な彼の創造性に深く寄与している。

パレスチナ青少年オーケストラのソリストとして数年間演奏したのち、2015年に『Floor No. 4』をリリース。以降も数枚のアルバムを発表している。

(11)「From Bethlehem to Angers」

  1. ベツレヘム…エルサレムから南へ10kmほどの場所にあるヨルダン川西岸地区の古都。ヘブライ語聖書では「ダビデの町」とされ、新約聖書ではイエス・キリストの生誕地とされる。 ↩︎
  2. ヤッファ…ベツレヘムからは70kmほどの距離で、車であれば1時間程度なのだが、パレスチナからイスラエルへの移動は容易ではないのだろう。 ↩︎
  3. 第一次インティファーダ…1987〜1993年に起こった、イスラエルとパレスチナ人の間での一連の暴力的諸事件の総称。「石の闘い」ともいわれる。これを経てオスロ合意に基づき、1994年にパレスチナ自治政府が設立された。 ↩︎
  4. ネイ…トルコやイランなどアラブ諸国で広く演奏されている伝統的な葦笛。今作では(8)「Les gitans」でその音色を聴くことができる。 ↩︎

Mohamed Najem – clarinet, ney
Clement Prioul – piano
Arthur Henn – double bass
Baptiste Castets – drums

Guests :
Youssef Zayed – oud, percussions
Thomas Laurent – harmonica

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