孤高の天才サンドロ・ハイキ。あらゆる楽器を演奏し、たった独りで創り上げた別次元のアルバム

Sandro Haick - Gratitude

ブラジルの鬼才サンドロ・ハイキ新作『Gratitude』

どうやら彼は、一人で別次元にいるようなのだ。

ブラジル・サンパウロ出身のマルチ器楽奏者/作編曲家のサンドロ・ハイキ(Sandro Haick)の2024年新譜『Gratitude』

ブラジルの伝統的なリズムとジャズ、プログレッシヴ・ロックが絡み合う素晴らしい作品で、アジアや中東の楽器をも取り入れた多彩な音楽表現に一種の凄みすら感じさせる作品だ。

ガットギターと空間的なシンセ、パーカッションと声をフィーチュアした(1)「Vida」、フレットレスベースとアナログシンセ、後半の素朴なアコーディオンも印象的な物静かなインスト(2)「Simples Assim」、シタールやタブラが異国情緒を誘う(3)「Gratidão」。

本作でもっともキャッチーな、ブラジルらしい素晴らしいフォホー(5)「Generoso」に、エグベルト・ジスモンチを想起させるサイケでプログレ風味の中東音楽(7)「Istambul」、曲中で様々な展開を見せるブラジリアン・プログレ(9)「Missão Divina」、”宇宙人”のタイトル通りSF風のシンセジャズ(10)「O Homem Cósmico」などなど、ジャケットの壮大なアートワークに違わない別次元を思わせる圧倒的な音楽が展開される。

(7)「Istambul」

そして何よりも驚くべきは、これらのオリジナリティに溢れた素晴らしい音楽を、サンドロ・ハイキがたった一人で創り上げているということだ。

この男はすべての楽曲を作編曲し、すべての楽器を演奏し、歌い、録音し、編集し、ミキシングし、アルバムをプロデュースしている。この記事の最後にも載せるが、彼が演奏する膨大な楽器のリストを見てほしい──ギターやカヴァキーニョ、シタール、ウード、琵琶、ベースなどのあらゆる弦楽器、ドラムスに沢山のパーカッション、フルート、そしてローズピアノやシンセサイザー。普通であれば何人もの特別な訓練を積んだミュージシャンが集い演奏されるであろう音楽を、この50歳を超えた音楽家がたった一人で作り上げている。

その世界観は、往年のパット・メセニー・グループや、エルメート・パスコアール、エグベルト・ジスモンチといった天才たちの軌跡にも重なるところがある。兎にも角にも、サンドロ・ハイキという音楽家の作品をまだ聴いたことがないなら、ぜひこの作品に触れてみてほしい。

(5)「Generoso」

Sandro Haick 略歴

サンドロ・ハイキは1971年サンパウロ生まれ。父親はサンパウロのバンド、オス・インクリヴァイス(Os Incríveis)やカーサ・ダス・マキナス(Casa das Máquinas)のドラマーとして知られるネチーニョ(Netinho)で、サンドロは2歳のときに父親からドラムセットを贈られ夢中になったという。8歳からプロとしての活動を始め、12歳の頃に子どもたちによるバンド「Bom Bom」を結成、バンドのリーダー兼ドラマーとして活動しイタリアのリゲイラ(Righeira)の曲のポルトガル語カヴァー「Vamos a la Playa」は6万枚を超えるヒットを記録した。

ドラマーとしてブラジル全土でのツアーやテレビ番組出演など活動する傍ら、彼は音楽理論や他の楽器を習得することの必要性も感じ、最初にギターと音楽理論を学び、のちにベースや鍵盤楽器全般も演奏するようになった。この様々な楽器の経験が、彼の独創的な音楽スタイルとアイデンティティの基礎となっている。

マルチ楽器奏者であるだけでは満足ではないかのように、彼は作編曲家、プロデューサー、レコーディングおよびミキシング・エンジニアでもあり、これまでにさまざまなスタイルの楽曲を制作。現代のブラジルを代表する音楽家として活躍を続けている。これまでに多数のアルバムを発表しているが、直近では若き天才ベーシスト、ミシェル・ピポキーニャ(Michael Pipoquinha)との共演作『Nosso Mundo』(2017年)や、エルメート・パスコアール(Hermeto Pascoal)やイチベレ・ズヴァルギ(Itiberê Zwarg)も参加した『Universal』は傑作として賞賛されている。

1978年から1988年のサンドラ・ハイキ
1988年から2007年のサンドラ・ハイキ
2007年から2015年のサンドラ・ハイキ
2015年から2018年のサンドラ・ハイキ

サンドロ・ハイキは「力」の漢字をロゴマークにしたブラジルのドラムメーカー、ナガノ(Nagano)のエンドーサーでもある。

Sandro Haick – vocal, drums, percussion, zabumba, tamburello, triangolo, agogo, colbell, timbales, shakers, tabla, derbake, campionatori, loop, fletless bass, electric bass, 7-string nylon guitar, 6-string steel guitar, 12-string steel guitar, electric guitar, tenor guitar, mandolino, cavaco, ukelele, charango, Portuguese guitar, viola pantanale trough viola, viola caipira, oud, sitar, electric sitar, pipa, massive acoustic guitars, flute, accordion, Rhodes piano, R.A. Moog, Arp Omni, DX7, DX7 2FD, Juno 60, Juno 106, Vocoder Micro Korg, Ensonic TS12, Spectrasonics Omnisphere, Korg guitar synthesizer, Boss SY200, Lexicon 480L, Soundcraft Series Five, modulo striscia Neve V2 Mosh

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