バジ・アサド新作はまさかのレニーニ『魚眼』カヴァー!30年の歳月を経て甦る名曲たち

Badi Assad - Olho de Peixe

ブラジルのギタリスト/シンガー、バジ・アサドがレニーニを再解釈

ブラジルのギタリスト/歌手バジ・アサド(Badi Assad)の新譜『Olho de Peixe』は、まさかのあの名盤の再解釈だった。タイトルを見てピンと来る人も多いだろう。オーリョ・ヂ・ペイシ(魚眼)。レシーフェ出身のSSWレニーニ(Lenine, 1959 – )が、斬新なパンデイロ奏法を含む様々な打楽器を操る魔術師のようなマルコス・スザーノ(Marcos Suzano, 1963 – )とともに録音した1993年の同名のアルバム『Olho de Peixe』は、地球の裏側日本のファンにも激烈な衝撃を与えたように、バジ・アサドや今作で共演するオーケストラのディレクターであるカルリーニョス・アントゥネス(Carlinhos Antunes)にとっても音楽家人生を左右するほどの作品だったようだ。今作は、彼女らがアーティストにとっての“分水嶺”であったとすら表現する名作『魚眼』への30年の時を超えた熱心なメッセージとなっている。

今作は『魚眼』のそれぞれの楽曲に非常に凝ったアレンジが施されており、新鮮な感覚で楽しめる構成となっている。(1)「Leão do Norte」(北のライオン)は原曲はパンデイロのビートが効いた4拍子だが、ここでは9/8拍子にアレンジ。移民たちで構成されるオーケストラ、オルケストラ・ムンダナ・ヘフジ(Orquestra Mundana Refugi)による無国籍で野性味の溢れるアンサンブルとともに新時代にブラジル北東部の魂を高らかに響かせる。

新たなアレンジで蘇った(1)「Leão do Norte」

独創的なコーラスが強烈な印象の幕開けの(2)「Caribenha Nação / Tuaregue Nagô」も素晴らしい。多彩で魔術的なリズム、魅惑のハーモニーはブラジル音楽の真髄だ。

とにかく素晴らしいアレンジが続くが、オルケストラ・ムンダナ・ヘフジの演奏も見逃せない。パレスチナ、キューバ、トルコ、イラン、ギニア、コンゴといった世界中多くの国からブラジルにやって来た難民・移民たちを中心とするこのオーケストラは、ピアノ、サックス、フルートといったブラジル音楽でも一般的に用いられる楽器だけでなく、ブズーキ、カーヌーン、リュートといった“外来”の楽器もふんだんに使われており、それがさらにアルバムに不思議な色彩感覚を与えている。

オリジナルの『魚眼』は真に独創的な音楽作品だったが、今作でもその精神は引き継がれている。
レニーニの音楽は本質的にパンクだと思っているが、バジ・アサドという音楽家も兄二人がクラシック・ギター界で長年活躍する環境の中で、自身も卓越したギターの技術を持ちながらも、兄たち以上にその音楽性の幅を広げてきた人物であり、レニーニという音楽家と精神的に呼応する部分があるのだろう。ユニークであること。そして、その個性で圧倒的なインパクトを与えること──これまでのバジ・アサドの国際的な活動を振り返っても、年齢を重ねても常に挑戦し続ける姿勢は音楽家の鑑のようにも思う。

ゾクゾクするようなコーラス・ワークの(2)「Caribenha Nação / Tuaregue Nagô」

Badi Assad 略歴

バジ・アサドは1966年サンパウロ生まれ。主にクラシックの分野で活躍する世界的ギタリスト、セルジオ・アサド(Sergio Assad, 1952 – )とオダイル・アサド(Odair Assad, 1956 – )は実兄。
レバノン系移民であり、ショーロのバンドリン奏者だった父は著名なアルゼンチン人ギター奏者モニーナ・タヴォラから子供たちにギターを習わせるため、1969年に家族を連れてリオデジャネイロに引っ越している。

バジ・アサド自身も幼少時から父や兄の影響でギターを始め、14歳からプロとして音楽のキャリアを開始している。リオデジャネイロ大学ではクラシックギターを専攻。1984年にリオデジャネイロで開催された器楽のコンクールで優勝、1987年にはベスト・ブラジリアン・ギタリストに選出されるなど兄同様に注目され、その後も米国の雑誌『ギター・プレイヤー』が世界に革命をもたらすギタリストとして彼女を選出するなど、ブラジルでもっとも優れたギタリスト/ヴォイスパフォーマーとして今日まで活動している。

バジ・アサドのあまりに素晴らしいギター弾き語り(今作未収録曲)

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