美しく力強い北欧ジャズの隠れ名盤。ベース奏者スヴァンテ・セーデルクヴィスト『The Rocket』

Svante Söderqvist - The Rocket

スウェーデンのベース/チェロ奏者による珠玉のアルバム

スウェーデンのベース/チェロ奏者/作曲家のスヴァンテ・セーデルクヴィスト(Svante Söderqvist)の2023年作『The Rocket』は、どこまでも美しく深みのある楽曲と演奏が続く北欧ジャズの絶品だ。ピアノトリオ編成をメインに、曲によってはアコーディオンやクラリネットも参加し、抒情的で豊かな音楽を紡いでいく。

不安定な世界情勢、社会の二極化といった時事問題が彼らの創作意欲を刺激した。(1)「The Rocket」はウクライナでの戦争を受け、人々の平和を願って書かれた楽曲。「世界中で民主主義が後退していると感じている」「この曲が、戦争に行くのではなく、隣人を尊重するという願いの象徴になればと思っている」とスヴァンテ・セーデルクヴィストは綴っている。楽曲と演奏はある種の激しさや怒りを内包しており、不安定と安定の間の激しい鬩ぎ合いを見せながら進行してゆく。

(1)「The Rocket」

つづく(2)「Exil」にはクラリネット奏者クラス・リンドクイスト(Klas Lindquist)と、エストニア出身のアコーディオン奏者トゥーリキ・バートシク(Tuulikki Bartosik)と、が参加。シンプルなコード進行の上でクラス・リンドクイストによるクラリネットが複雑で美しいソロで主役となっている。スヴァンテ・セーデルクヴィストはチェロをピッツィカートで弾いており、そのパーカッシヴな演奏も素晴らしい。

(2)「Exil」(アルバム収録版とは異なるセッション)

スウェーデンのフォークソングの素朴さが、ラテンの雰囲気を纏い、憂鬱なアルバムのテイストに染まったような(3)「The Man with the Blue Hat」も美しい曲だ。ピアニスト、アダム・フォルケリッド(Adam Forkelid)とドラムス/パーカッションのカッレ・ラスムソン(Calle Rasmusson)との息は完璧で、すべての音に無駄がない。

アコーディオンが主役となりエンニオ・モリコーネ風の情景を想起させる(4)「The Third One」、ミシェル・ルグランへのオマージュである(5)「Michel」など、大胆かつ繊細な感性で紡がれる様々な物語たち。これらの創造力に富んだ世界観を高度な次元で生み出すスヴァンテ・セーデルクヴィストという名の国際的な知名度がまだまだ低いというのなら、それは社会がなにかのボタンを掛け違えているのだろう。

Svante Söderqvist Trio :
Svante Söderqvist – double bass, cello, voice
Adam Forkelid – piano
Calle Rasmusson – drums, percussion

Guests :
Klas Lindquist – clarinet (2)
Tuulikki Bartosik – accordeon, electronics (2, 4, 7, 8)
Sebastian Notini – percussion (3)

Svante Söderqvist - The Rocket
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