新時代のジャズ・ヴィブラフォンが響く。鬼才パトリシア・ブレナン、奇天烈な世界を拡張する新作

Patricia Brennan - Breaking Stretch

ヴィブラフォンをネクストレベルへ。パトリシア・ブレナン新譜

ヴィブラフォンによる音楽を次のレベルへと導く鬼才パトリシア・ブレナン(Patricia Brennan)の新作『Breaking Stretch』は、やはり期待以上だった。今作は3管を含むセプテット編成で、カオスぎりぎりを攻める最高にシビれる音楽をぶちかます。

とにかく彼女の音楽のかっこよさは、聴いてもらうしかない。エレクトリックをさりげなく、そしてふんだんに用いた奇天烈なサウンドは、ヴィブラフォンという楽器のイメージを覆すに違いない。いや、ヴィブラフォンだけではなく、ジャズというジャンルそのものを前進させる力が彼女のバンドにはある。

収録曲はすべてパトリシア・ブレナンの作曲。バンドはパトリシアのほかマーカス・ギルモア(Marcus Gilmore, ds)、キム・キャス(Kim Cass, b)、マウリシオ・エレーラ(Mauricio Herrera, perc)、ジョン・イラバゴン(Jon Irabagon, as)、マーク・シム(Mark Shim, ts)、アダム・オファーリル(Adam O’Farrill, tr)という編成で、アンサンブルは有機的に絡み合う。

(1)「Los Otros Yo」はスペイン語で“そのほかの私”の意味で、ひとりの自己のなかにある複数のアイデンティティについて探求し考察する。混沌と調和の絶妙なバランスがとても印象的だ。

複雑な変拍子の(4)「Palo de Oros」も超絶的。奇妙に揺らぐヴィブラフォンの音色は不気味な支配力を発揮し、他の楽器はそのなかで踊らされているようにすら聴こえる。不思議で魔術的な音楽だ。

(4)「Palo de Oros」

アルバムのラストを飾る(9)「Earendel」は、2024年現在で地球から最も遠い既知の恒星であるエアレンデル1にインスパイアされ書かれた曲。楽曲には未知への恐れと知的好奇心が入り混じり、複雑な色彩を醸し出す。

(9)「Earendel」。想像力を刺激するMVも最高だ。

Patricia Brennan – vibraphone with electronics, marimba
Jon Irabagon – alto saxophone, sopranino saxophone
Mark Shim – tenor saxophone
Adam O’Farrill – trumpet (with electronics on tracks 1, 3, 9)
Marcus Gilmore – drums
Mauricio Herrera – percussion
Kim Cass – bass

関連記事

  1. エアレンデル(Earendel, または WHL0137-LS)…2022年にハッブル宇宙望遠鏡によって発見された、地球からもっとも遠く離れた位置にある恒星。共動距離280億光年という途方もなく遠い彼方にある星。2022年に検出されたエアレンデルの光はビッグバンから9億年後に放出されたもの。赤方偏移は6.2 ± 0.1と測定され、これはエアレンデルからの光が129億年後に地球に到達していることを意味する。 ↩︎
Patricia Brennan - Breaking Stretch
Follow Música Terra