フォーク、ボサノヴァ、ジャズを融合するリアナ・フローレス新作
ロンドンのシンガーソングライター、リアナ・フローレス(Liana Flores)のメジャーデビュー作『Flower of the soul』は、万人におすすめしたい傑作だ。イギリスのフォークに60年代のブラジルのボサノヴァとジャズの雰囲気をまぶし、時代を超えた魅惑のベッドルーム・ポップに仕立て上げる。
新世代らしくYouTubeやTikTokを通じて人気となった彼女だが、アルバムの冒頭(1)「Hello again」を聴けば、そのセンスは類稀で、成熟したものであることがすぐに分かるだろう。ガットギターとピアノを伴奏のメインにし、大人びて落ち着いた英語のヴォーカル、彼女自身が多重録音したコーラス。ダブルベースの温かな低音と軽やかに舞うフルート。リズムや和音にはボサノヴァの影響が反映され、かといってボサノヴァそのものでもなく、非常にポップで洗練された印象を受ける。
どこかノスタルジックなスウィングワルツ(2)「Orange-coloured day」は普遍的な美しさや音楽の高揚を捉えており、ミュージカルの楽曲からも影響を受けたという彼女らしさが表れている。
続く(3)「Nightvisions」も素晴らしい。メロディーはキャッチーかつ美しく、楽曲全体の構成やアレンジも優れている。
(5)「Now and then」にはなんとブラジルの巨匠チェロ奏者、ジャキス・モレレンバウム(Jaques Morelenbaum)が参加。もちろんリアナ・フローレスの作曲なのだが、本作の中でもボサノヴァ色、さらにいうとアントニオ・カルロス・ジョビンの影響が強く表れた優れた完成度の楽曲となっている。
(10)「Butterflies」はブラジルの新世代の重要人物であるチン・ベルナルデス(Tim Bernardes)がヴォーカルとギターで参加。今作随一のアンニュイな美しさで、リアナ・フローレスの音楽家としての奥行きを証明する素晴らしい楽曲となっている。
このアルバムは決して斬新なものではないが、過去のあらゆる音楽遺産の最良の部分を吸収し、自身の音楽表現に落とし込んだという意味では最高の作品のひとつであろう。
Liana Flores 略歴
リアナ・フローレスは1999年にイングランド東部のノリッジに父親がイギリス人、母親がブラジル人という家庭に生まれ、サウスノーフォークで育った。
2013年にYouTubeチャンネルを開始し、主にミュージカルやその他の曲のウクレレでの弾き語りカバーなどをアップし人気を得ていたが、その後はオリジナル曲に力を入れ始めた。
自主制作EP『recently』(2019年)収録の「rises the moon」がTikTokでヒットし、Spotifyでの再生回数5億回を記録するなどし多くのフォロワーを獲得。ジャズ・レーベルの大手、ヴァーヴ・レコード(Verve Records)との契約のきっかけともなった。
彼女は影響を受けたアーティストとしてヴァシュティ・バニヤン(Vashti Bunyan)とカエターノ・ヴェローゾ(Caetano Veloso)を挙げている。また、母親のCDコレクションにあったボサノヴァやフォークのレコードから強い音楽的インスピレーションを得たと述べている。
リアナ・フローレスは、グラミー賞を獲得したアイスランドのレイヴェイ(Laufey)らと並び、フォークやボサノヴァ、そしてジャズを繋ぐ新世代の音楽家として注目を浴びている。